移動教室
魔法にもたくさんの種類があり、その種類によって教室が違うため毎回教室移動をしなければならない。
授業の終わりを告げるチャイムが教室に鳴り響き、生徒達は急いで教科書を片付け始める。
「マリー。次の教室は?」
「次はジャンキー先生だから東館の奥よ」
「はぁ?!反対方向じゃんかよ!」
「…ジョーンズ、走るぞ!」
教科書を抱え大急ぎで東館に向かった。
休み時間は10分あるが、このホワイト学園は東京ドーム何十個分とバカでかく、いくつも階段や廊下が要り組んでいて迷路状態。迷って遅刻なんかすればまたバケツを頭に乗せられて廊下に立たされる。
魔法が使えない魔櫻はただびしょ濡れになる行為を永遠と繰り返し風邪をひくだけ。それはなんとしても阻止せねばならない。
「コラ!ヤマモト、ビクトリア、ルージュ!廊下を走るな!」
右側の部屋から担任、ジャンキーが大きな声で怒鳴りながら出てきた。
「す、すみません」
「今度から気をつけるように」
「はい…すみませんでした」
西館の方に曲がって行ったのを確認すると、魔櫻達は猛ダッシュで東館を目指して走り出す。
東館の奥に続く廊下を走っていると丁度チャイムが鳴り出した。
必死に走り魔櫻が勢い良く教室の扉を開けた。
「セ…っセーフ!!!」
「アウトだ馬鹿者」
そこには西館の方に曲がって行ったジャンキーの姿があった。
「なんでジャンキーがいんだよ!?」
「良い度胸だな?ジョーンズ・ビクトリア。先生だろうが!馬鹿者!!遅刻の上に先生を呼び捨てとは…お前ら廊下に立っていろ!!」
「え……お前ら!!?」
魔櫻とマリーはジョーンズのせいで巻き添えに逢い、廊下に立たされた。
先ほど述べたように只立たされる訳ではなく、頭の上にバケツを乗せ、魔力で保つと言う理不尽な罰。
魔法をまだ使えない魔櫻は当然の用に溢しまくり、そしてジャンキーの提案で溢した水を拭いて、わざわざ南館まで汲みに走って行くはめになった。
「…く…酷い目に会ったぜ」
「ごめん…マオ、マリー…」
いつもは寝癖でぴょんぴょん跳ねているジョーンズの髪が水で濡れてくたくたになっていた。ジョーンズだけではない、いつも美しいウェーブがかかったマリー髪、少しパーマがかかった魔櫻の髪もジョーンズ同様くたくたになっていた。
「つーかさ?なんでジャンキーが教室にいたんだよ。西館の方に行ったはずなのに……。なぁマリー。瞬間移動する魔法とかあんのか?」
魔櫻は保健室で借りたタオルで頭をゴシゴシ拭きながらマリーに聞いた。
「瞬間移動の魔法はイタズラ防止の為にこの学園では使えないはずよ。……でも先生達の移動用に『移動教室』って教室なら聞いたことがあるわ」
「『移動教室』?」
「先生用移動手段よ。この学園のいろんな所に繋がっているらしいんだけど、その教室にごとに行き先が違うらしいの。行き先は先生達しか解らないから生徒は使えないの」
「はー面白いの聞いたなー。俺も行ってみたいな!『移動教室』!」
ジョーンズはタオルを首にかけてこの辺りに『移動教室』が無いかとキョロキョロ辺りを見回した。
「…んてさ、ジョーンズ。次は何処?」
濡れたローブを絞りながら魔櫻が言う。
「ふへェ?えっとートップリッツ先生だから…あ。西かn……グフ!!」
魔櫻がジョーンズを間髪を入れず殴った。
「あほか!!先に言えよ!」
「痛てー!!なんだよ!魔櫻が覚えとけば良い話だろ?!」
「今日の時間表の当番誰だよ?…お前だろうが!!」
魔櫻は拳を振りかざしまたジョーンズを、今度は思いっきり殴った。
「ぬわああっイデェー!ヒデェー!絶対脳みそ飛んでったぞ!コレ」
「んな脳みそ捨てちまえ!マリー!走るぞ!」
タオルを首に掛けて走り出す。いろんな先生に呼び止められたが今度こそ遅刻するわけには行かない。無視して大急ぎで教室に向かった。
階段を上り、ジョーンズが勢い良く部屋に入った。
「よっしゃ!!セーフ……?!ん?アレ?」
そこは4畳半程度しか無い小さな部屋だった。カラフル壁はぐにょぐにょと波打つように揺れて平衡感覚が失われるような変な感覚。
「どうしたの…?ジョーンズ」
「先生居た…か…?……何だよ…ここ?」
続いて入って来た魔櫻とマリーも目の前の光景に驚いた。
「…ああ!!マオマオー!」
「何だよ?」
「階段登るの忘れてた」
「……どういう事だ?」
「ここは3階で、トップリッツの授業はー……4階だった」
あははーと笑いながらジョーンズは「どうしよう?マオ」とまるで人事のような態度。
「…お前さ、いっぺん死ぬか?え?死にたいか?」
「イヤイヤ、待ってください!マオ様!次、殴られたらオレ死んじゃう!」
「言い残したい事はねーな?」
「イヤーー!!待ってっ!早まるな!!」
「ねぇ!待って魔櫻!」
急にマリアンヌが駆け寄り、静止の声を上げる。
「何だよ?」
「私たちが入ってきた扉が……無いのよ」
「は??」
振り返るとさっき勢い良く入ってきたはずの扉が消えて回りと同様のカラフルでぐにょぐにょと揺れている壁になっていた。
「何だよ…コレ?」
ガコン
「がこん?」
音がしたと思いきや。部屋が真上に動きだした。
「はああぁぁあ!?教室が動いてる…?!!」
カタカタと音を立ててまるでジェットコースターのように部屋は上に昇る。
「なんか嫌な予感が…」
ガッコン!と音を立てて止まった。
「…なんだよ。止まったじゃんか。魔櫻はいっつも気にし過ぎんだよなー」
「いや、ちがう…これは…」
止まっていた部屋がまたカタカタと動きだしたと思った瞬間、急に心臓を上に忘れてきたような奇妙な浮遊感を感じたと思うと、部屋が急落下し始めた。
「ぬあああぁぁぁああ!!!」
「どこが大丈夫なのよー!!!馬鹿ジョーンズ!!!!」
「バカっていうなぁぁぁぁああ!!!」
「どこかに…移動しているみたいだが…!これ…移動教室ってやつかぁ!!?」
「そう考えるのがだ、妥当ね…!!」
「え?移動教室?!やったぜ!!マオマオ!これさえあればどこでも行けんだろー!!」
「ばかか!おまえは!今の状況を考えろ!!やっぱり死ね!!!」
魔櫻が叫んだ途端部屋がぐにょんとゆがみ、カラフルだった壁もどんどん透明になって行き……
ドスンとどこかに落ちた。
「イデェー!!」
「今度はなんだよ…」
起き上がり辺りを見渡すと赤色絨毯が敷かれた広い部屋。
中央にある大きな作業台らしきテーブルには布や沢山のメジャーやモノサシが散布している。
「ここ…もしかして?」
「ラスイフォンの採寸部屋…か」
「やっべーよ!…てかなんでラスイフォンの部屋に?俺たちは学園に居たはずだろ?」
見覚えがあるのも無理はない、入学式前にこの採寸部屋で魔櫻達は制服の採寸を受けたのだ。だが、ラスイフォンの採寸部屋は学園の隣町・モラートにある。
「ということは俺らは『移動教室』でモラートまで飛ばされたってことか…」
「いつまで乗ってんだ!?あ?」
「ラスイフォン!」
考え事に耽って居たためラスイフォンの上に落ちたことに気付かなかったみたいだ。
だが、普段のオネエ系のラスイフォンと少し様子が違うような気がする。
「…あ、すいません」
魔櫻たちはラスイフォンの上から退いた。
いつもなら、「いいのよ〜」とか気持ちの悪い事を言って俺達に抱きついてくるのだが、今のラスイフォンは頭を押さえてこちらにガンを飛ばしている。
「クソ餓鬼どもが。俺様のテリトリーに入ってくるなんて。良い度胸じゃねーか?あ?なんか言えよ。口があんだろ?」
「お、俺様?!」
「ねぇ、魔櫻、普段のラスイフォンの一人称は?!」
「確か…『あたし』だったはずだが…」
「なにこそこそやってんだ?てめーら」
むくっとゆっくり起き上がる。
「あれ?あの、ラスイフォン…、サングラスは?」
起き上がったラスイフォンの顔にはサングラスがなかった。
普段はサングラスを取ろうものならメジャーでぐるぐる巻きにされたりと、絶対に『取られたくないもの』だったはずだ。
「あ?ああ、あれか。お前らのせいでどっか行ちまったじゃねーか」
「ごめんなさい、ラスイフォン……私たちのせいで、大切なサングラスを…」
「良いって。裏モラ市で安く買ったもんだから気にすんなって」
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