Saturday 

結局、昨日は景吾のキスで動転して、彼を置き去りにしたまま電車で帰ってしまった。朝起きて様子を伺おうとすれば、テーブルの上に景吾が作った朝食と(今日は夜まで出掛けるからご飯はいらねぇ)と書かれた紙が置かれていた。キスのことに触れてない辺り、景吾は気にしてないのかも。うん、外国だとハグとかキスは普通らしいもんね、挨拶みたいなもんだよね。…でも気にされてないのも辛いなあ、私結構気にしてるんだけど。
忍足との待ち合わせに遅れない用意して行けば、十分前だというのに既に待っていた。

「おはよーさん」
「えっ、早くない?」
「なまえとのデート楽しみすぎて、早よ来てもうた」

普段と変わらない表情で言う忍足は、何処まで本気かよく分からない。よく心を閉ざす忍足の真意を知っているのは、おそらく本人だけだろう。「ほな行こか」と私の手を引いて歩き出した忍足の横顔を眺めながら、そんなことを考えた。
忍足に連れられて来た場所は、至って普通の雑貨屋だった。入った途端、予算は?と聞く忍足に、「…二千円くらい」と伝えれば安いなあ、と笑われた。

「仕方ないでしょ、給料日前は金欠なんだから。」
「せやなあ。大事なんは気持ちや、気持ち」

大事なのは気持ち、そう言う割に忍足が勧めるのは鼻眼鏡とかマジックの小道具など、とてもじゃないが誕生日プレゼントとして渡しにくいものばかりだ。

「ネタとしては最高やろ」
「本気で考えてないでしょ」

本気で、なあ……とため息を吐きながらも、あるものを指差した。

「これはどうや?」
「……これ、?」

前あいつが欲しがってたわ。とはにかむ忍足とは反対で、私の気はあまりすすまなかった。買うのは構わないが、果たして彼が気に入ってくれるのだろうか。

「でも、」
「跡部が欲しがっててんから。ほら、予算も二千円やし」

忍足のごり押しに負けた私は、結局それを買うことにした。その後、二人で昼食を取る為近くのカフェに入った。

「そう言えば、忍足が大学のカフェで私にメイドにならないか、って頼んで来たんだよね」
「ああ、あれなあ…」

懐かしむ様に笑って「明日で終わりなんだけどね」と言えば、「あいつのこと、ちゃんと祝ったってな。あと、プレゼントちゃんと渡しや」と念押しされた。言われなくても、と喉元まで出かかった言葉を飲み込んで頷けば、忍足は嬉しそうに微笑んだ。
帰りは送ると言われたが、跡部の家は忍足とは反対方向なので駅まででいい、と断った。別れ際に忍足がふと足を止め此方をジッと見た。

「?なに、」
「跡部となまえ、なかなかお似合いやで」

それだけ言えば「ほな、」と片手を振り早歩きで去る忍足を、私はただ見つめることしか出来なかった。



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