仲違いなど何万回 | ナノ

「お前なんか嫌いだ」「俺だって嫌いだ」「俺のがずっとずっと嫌いだ」

殴ったわけでも殴られたわけでもなかったのに、やたら目の前が真っ赤になって、そこらじゅう全部熱くて軋んで痛かった。泣かすなんて言った俺の方が泣きそうだった。耳の中がわんわん鳴って焼けついた胸が悲鳴をあげて、ばくばくうるさく脈を打って、生まれて初めて喉を枯らした。どのくらいそうしていたのかも分からない。馬鹿みたいだった。死んじまえばいいと思った。俺もあいつも。

図星と化粧水
ゆるやかに枯渇してゆく
オマエなんかどうにでもできるんだよ
どうにだってなるよおれは

なあ、でもしてないだろ。そうじゃない。できないわけじゃない。そうじゃないんだ。

幼い意地だけでかろうじて
か細いそれをずっと握って
繋がりきれないこの糸を
なんでまたおまえのことなんかでこの俺が

とか思ったらちょっと笑えた。

恋するわたしの途方もない記憶力(あなた限定)
いつもの呪文がきかないの
大嘘つきのハンバーグ
きみの匂いが染みとおって部屋中するする音を立てる
起きろよ
ぼくときみの普通
笑わないでください!!
わらわないでよお
アパート更新時期の一悶着
家賃はんぶん払ってください
もうちょっとロマンチックに言ってよ
夜に紛れる背中のまるみ

いつかなくなる暮らしの顛末

たとえばそれはおれやおまえ自身だとか、2人でいるこの部屋だとか、見た目のわりに食べられる料理だとか、腕に這わせる指先の迷いのなさだとか、いつまで経っても直らない散らかし癖だとか
そんなことじゃないよ
そういういろいろのもっと奥にあるような、全部が全部そこから生まれてくるみたいな、このうすい皮膚の下、ずっと内側にある不確かななにかだ

いつか離れる日は来るということ
なんとなく別れても
ゆく道が違っても
お互いでない人を好きになっても
家庭のジジョーでも
不治の病でも
生きようが死のうが
離れても忘れないということ
お医者様でも草津の湯でも
処方箋と一億万日
よろこびなど一瞬
誰もがかかった世界の呪い

愛しいあいつが帰ってきたら

いつもみたいに偉そうに怒鳴りつけてやろう、全然ちょっとなんかじゃねえじゃんって、めちゃくちゃ待ったっつーのって、うるさく理不尽にまくしたてて、それから力任せに思いっきり抱き着いてやるんだ。きっとあの馬鹿はいやまだ夕方だし、とか言いながら、ちゃんと慌ててこの背を撫でてくれるから。それから「ごめん」なんてまるでなんの脈絡も意図もないみたいな声音で謝るんだ、そうしたら言える、「俺もごめん」。ごめん。

だからこれからも今まで何度だってやってきたやりとり
飯がないとか帰りが遅いとかトイレの電池がないとかシャワーが不調だとか
ポカリとアクエリどっちがうまいかとか
どうでもいい日々事ばかり、呆れるくらい単純に繰り返して

不機嫌にかこつけた小狡い謝罪さえ
背中を撫ぜるひとかけの温度さえ
きみの掌ひとつぶん
それだけでまだ生きていける


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