蛙の面に水
 一言で彼を表すとすれば、無表情。幼稚園の頃から一緒だったけど、あの時は確かに泣いたり笑ったりしてたはず。表情がなくなって来たのは、中学生の頃。離婚だとか、いじめだとかにも表情一つ変えないなんてねえ?お母さんは心配してた。あんたは幼なじみなんだから、ちゃんと話聞いてあげなきゃあ。うん、と頷きながら、彼には友達もいたし、心配はあまりしなかった。その頃には近所の公園で一緒に遊ぶなんてもうなかった。挨拶を交わすだけの関係になるなんて、幼なじみという肩書を持ってればよくあることだと思う。私たちも例に漏れず。

 でも、そう、制服のポケットに仕舞わない手がかじかむけれど、春は近付いていて、そんな季節。見間違いだって思い込もうとした。彼は泣いてた。

 簡素な関係になってしまった私たちだけど、やっぱり幼なじみの肩書は残ってるし、お母さんに似てお節介だし、理由を尋ねずにはいられない。彼の答えは意外や意外、失恋、だった。そうかそうか知らない間に幼なじみは恋をしていたのか。いじめにも、親の離婚にも、厭味な先生の小言にも動じない男の融点は恋か。止まんねえ、と泣きながら言う彼に、適当にバッグに突っ込んでいたハンカチを渡す。

 とりあえず公園に行こうか。久しぶりに幼なじみの肩を叩いた。

四匹の蛙、退場

title req/蛙
高瀬さんへ

~20110302
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