「君が考える最高の別れ方って何?」
白と黒を基調にしたどこか冷たい喫茶店で、何の前触れもなく彼は言った。高校の卒業式、私が彼に告白してお付き合いというものを始めてからもう4年が経っている。無口で勉強ばかりしてる、どちらかと言えば近寄り難い存在だった彼が、私を告白にまで至らしめた理由は恐ろしく単純だから友達にも言ってない。正直に言えば、彼がどうして私と付き合うことをよしとしたのかも、どうして4年もこうしてお付き合いが続いているかも分からない。だからこんな風に別れ話のようなことを切り出されることに私はそれ程驚かなかった。もちろん、彼が好きで仕様がないのだからそれはそれは悲しかったのだけれど。彼との今までを思ってもう泣きそうになってる私を、彼がじいっと答えを待つように見つめるものだから、出かけた涙が途端に引っ込んでしまった。
「なんでもない午後に…」
私は続けた。目線は彼のチョコレートパフェの残骸に。女の私よりもずっと甘いものが好きなのだ。
「なんでもない午後に、ストレートに、さよならって言って欲しい。きっぱりと君とはもう付き合えないって。」
やっと言い終えると、ふうんと漏らして「僕とは違うな」と思慮深げに言った。
「僕のも聞いてくれる?」と視線の行き先だったパフェの残骸を左に寄せてしまうと、さっきのような目で私を見つめた。
「僕はね、雪が降ったり、大雨だったり、そんな日に別れを言いたいんだ。星がとても綺麗な夜でもいいかもしれないな。そんな日に別れたら、絶対忘れないだろう。僕が残るにしても、君が残るにしてもね。統計からいえば君が残ることになると思うんだけど。」
「残る…?」
「うん、女性の方が長生きするって言うだろ。ねえ、星が綺麗な夜を迎えるまで、ずっと僕の傍にいてくれるよね」
これ、プロポーズだよ?なんて言いながら、彼はパフェをまた引き寄せて残骸を綺麗にスプーンで掬い取った。
考査期間中のことだった。いやだ、だるいと心の中で漏らしながら、学校の図書館でガリガリとシャーペンを走らせていた。
「ねえ」
いつの間にこちらに来ていたのだろう。話したことなんて数えるくらいしかないクラスメートが、そこにいた。
「夕焼けがすごく奇麗なんだ、誰かに教えてあげたくて」
彼は、邪魔しちゃってごめん、と再び元居た席に戻っていく。見た夕焼けは本当にきれいだったこととか、彼が誰かにそれを伝えたくってうずうずしてたのかとか。
単純だった。彼とたくさんのことを共有できる存在になりたかった。
「うん、そんな夜まで」
スプーンがからん、と鳴る。
20110205
[ 1/6 ]