地上の星〜『CROSS DELUSION』様より






任務の帰りの事だった。
タマキが夜空を見上げながら呟く。

「東京の空は、ほんと星が少ないな……」

俺も一緒に見上げる。
せいぜい北極星とその他の一等星をかろうじて見つけられるくらい。
それも何の星座かと言われれば記憶があやしい。

「アルクトゥールス、スピカ……それからデネボラ?」

「うん。春の大三角形だ」

タマキが嬉しそうに頷いた。
そう言えばタマキは星が好きだったな。
……こないだの皆既月食もすごく楽しみにしていたっけ。
残念ながら曇りで見られなかったけど。

「タマキ……。星を見に行こうか」

「え?」

「夜空の星じゃないけど……」



*******



そう言って連れてきたのはお台場の観覧車。

電車に乗る時点でタマキもどこに行くのか見当はついたらしく「楽しみだ」と言ってくれた。

駅から乗り場はすぐだった。

平日の夜と言う事もあって、並ぶことなく乗ることが出来る。

ゴンドラは二種類あったが、俺たちは普通のに乗ることにした。

係員に誘導されて中に乗る。

俺たちは互いに向かい合って座った。

扉を締められればそこはつかの間の二人だけの空間だ。

ゆっくりと地上を離れていき、それにしたがい目の前に東京の夜景が広がっていく。

それは一面に人工的な灯りを散りばめた地上の星空だった。

「綺麗だな……」

タマキは感嘆したように呟く。

「……東京は、夜空の星はあんまり見えないけど。地上の星も捨てたもんじゃないだろ」

「ああ」

「別に夜景なら都庁の展望台からでもよかったんだけど。……こうやってタマキと二人で見たかったんだ」

煌びやかな都会は、明るすぎて空を霞ませてるけどその明りの中でたくさんの人々が懸命に生きている。
地上の星はその人々の数だけ輝いていて、俺たちもその星の一つだ。

俺はそんな懸命な星の一つである自分たちを実感したかったのかもしれない。

今こうしてタマキと一緒に生きていることを。

「………そっち行っていいか?」

「えっ」

タマキがそう言いながら隣に座ってきた。

「ほら、もうすぐてっぺんだから。そっちからのほうが外側を眺められるだろ……」

タマキの体温を感じる至近距離。
自分の心臓が跳ね上がる。

しばらくアナウンスもなく、二人とも無言で夜景を眺める。

「俺も……この夜景をお前と見れてよかった」

タマキがそういいながらこちらを向く。

「きっと忘れられない思い出になる。……ありがとう、カゲミツ」

そう言いながら俺の手を握ってきた。

タマキと生きていくことで積み重ねていく二人の思い出。
こんな風に言われて胸が熱くなる。

(俺の心の中を、新しくおまえで満たしてほしいんだ)

タマキの言葉を思い出す。
カナエの思い出は消えることはない。
けれど、これから新しい思い出を作っていくことは出来るから。

俺はタマキの手をギュッと握り返す。

「タマキ……」

互いに熱く視線を絡ませる。

言葉は不要だった。

俺が顔を近づけると、タマキが顎を上げながら瞳を閉じた。

唇と唇を重ねる。

軽く触れ合うだけの口付けを、ゆっくりと味わい……それからそっと離れた。

「…俺も、最高の思い出だ」

そう言いながら微笑むと、タマキは俺の肩口に頭を預けてきた。


後は二人で手を握り合ったまま、夜景を最後まで堪能した。






「今度は、本当の星も見に行こうぜ」

俺がそう言うとタマキが笑いながら頷いた。

俺は、これからもこうやってタマキと思い出を積み重ねていけたらいいなと思ったのだった。



追記
2015/08/25


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