拒んでごらんよ
黒い雨が降る。
全部の色が混じり合った絵の具の水入れのように、薄い黒の水を被せられた景色を見ていると僕の心も黒く塗りつぶされていくような気がした。
何枚も、何枚も重ねられた黒はやがて他の色が見えないほど真っ黒になる。
光は色を重ねるごとに白に近づくというのに、この黒は厄介極まりない。もがけば、もがくほど絡まり、やがては全てを覆う。
「……君は酷いな。僕ができないことを知っていて、そう言うんだね」
しとしと。
ぴちゃぴちゃ。
雨の音はノイズとなってあちらこちらでさざめき合う。
手に触れる窓ガラスは硬質で冷たい無機物。僕の体温は溶けて浸透し、放出される。
このガラスのように、彼にも僕の体温が溶けて、その体躯を少しでも温めることができたらいいのに。
甘い願望が胸を疼かせる。
「私が憎いですか?」
「……憎いよ、とても。でも、そんな君を、僕は愛しているんだ、だから」
仕方がないじゃないか。
そう言うと、彼は肩をわずかに揺らして笑った。
窓ガラスに反射した彼の目が僕を見つめている。視線をそらすのは、いつも僕だ。彼の真っ直ぐなそれを受け止めきれずに、僕は窓の外へと意識を流す。
彼はまるで氷だ。僕の熱を吸収して、まるごと全部奪い去る、氷の結晶なのだ、と思った。
その身体を温めることは困難で、いくら僕が温めようと肌を合わせても、容易には許してくれない難攻不落の砦。
「私も、あなたが好きです」
彼は嘘をつく。
しかし僕はそれすら、拒めずに、縋る。
彼のことが好きだから。愛している。
心の底から捕らわれている僕に、彼は無慈悲にもこう言うんだ。
“ほら、拒んでごらんよ。”
企画:theMOONさま
お題:青さま
ユーリ企画第二弾の空月です!
月さんが悪女のように意地の悪い性格になってしまいました…でもそんな彼に翻弄される空が好きです。
読んで下さってありがとうございました!
流史拝
流史の管理しているサイト「コディナ」に戻ります。
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