恋するバンビに恋した琉夏






校庭の片隅に植えられたらひまわりが夕方になろうというのに凛と天に向かって伸びていた。
まるで太陽を慕うかのように。


「ひねくれ天道虫」title by ククさん


画集の1ページを切り抜いたかのように鮮明に瑞々しい彼女を見つけ彼は息を飲んだ。

「園芸部じゃないのに水やり?」

黄緑色のジョウロからぽたぽたと水滴が落ちると、乾いた土が黒く滲んだ。

その場にしゃがみこみ彼女を見上げる。

「うん、帰ろうと思ったんだけど、ひまわりが元気なさそうだったから」

彼女は優しくそう言った遠くで蝉が鳴いている。

「俺も元気ない」

慰めてよ、という言葉を彼は言えなかった。
彼女が戸惑うのが分かっていたから。

「なんて、ね。冗談」

彼はそれが幸せだった。

「コウは?」

自分で傷を作ることにももう慣れた。彼女には近づいていけないと戒めるために傷を深く抉る。

「氷室先生に呼ばれてたから」
「じゃあ一緒に帰る?」
「あ、待ってろってコウちゃんが」


ため息を隠して勢いよく立ち上がると、少しだけクラクラと目の前が暗くなった。


「そっか、じゃあ俺は先に行くよ」
「えっ、三人で帰ろうよ」

先に行くどころか随分遠くに置いていかれていることに虚しさしか彼は感じていなかった。

「早く帰ってこないと、鍵かけちゃうよってコウに言っといて」

三人じゃだめなんだ。

でも、彼はそれで幸せだった。


在る夏の日。




fin.


久しぶりに書き上げました。なんだか色々不安です。琉夏のことを思うと、なんだか寂しい気分になりますが、彼は悩んで苦しんで幸せの形を探している途中だと思います。
タイトルはククさんに無理を言って付けて頂きました。ありがとうございました。


2012#7#15
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