ストーカータイラー








神様、僕の願いを叶えてください。


「寒いね」と言った彼女は、続けて「身体全体で呼吸しているって思えるの」と白い息を優しく吐いた。
ぴんっと張った空気の冬の景色に彼女はとても似合っていた。

彼女の言葉はありふれた日常を魔法のように変えてしまう力を持っていた。
冬の朝がこんなにも美しいと思ったことは一度もなかった。
これを知ってしまったら、もうその世界なしには生きていけない、きっと、絶対に。

けれど、彼女が「寒いね」と言った先には、背の高い彼がいる。
知らないほうが幸福な事実がこの不条理な世の中にはたくさんあるというのに、知ってしまったのだ。分かってしまったのだ。
むしろ、今まで気づかなかったことのほうが奇跡に近いのだろう。

彼を見ている彼女を僕は、見ていたというのに。

彼女と彼が笑うのを僕は、見ていた。


「んなら、手出せ」と彼が言うと彼女は「やっぱり冬が好き」とにっこりと笑った。
彼女と彼の手が合わさって、景色になって消えていった。


神様、僕に、諦めろと諭してください。


fin.

―――

片思い琉夏を書こうとしたら、ストーカータイラーが出来上がった件について


20121105

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