恋するバンビに恋した琉夏
◎琥一バンビ←琉夏


これは、きっと何かの罰だ。

「何か」と曖昧にしてみたものの、答えは既に明白に出ている。それは、彼女に好きだと言わない罰なのだ。

彼女はサンドイッチと小さなサラダを膝の上に並べて「こっちは、琉夏ちゃんの分」と別のお弁当箱差し出してきた。
昨日三人で一緒に帰ったとき「サンドイッチ最近食べてない」と呟いた何気ない一言を翌日にはこうして作ってくれる彼女。
もちろん、作って欲しくて言ったわけではない。
だけど、心は躍る。
それに、お昼を彼女とふたりで食べることは久しぶりだった。


「コウちゃんにね、急にバイトが入ったって言われちゃった」

彼女の持っていた雑誌に目を落とすとナイトパレード特集として近隣の遊園地が並んで紹介されていた。

「遊園地?」

「うん、ナイトパレード明日までで行こうねって約束してたのに……でもバイトだから仕方ないよね」

バイトに生活が掛かっているのは兄弟揃って同じなのだから「コウもバイトぐらい休めばいいのに」とは簡単に言えなかった。
彼女もそんなことは言わないだろう。

「今年のパレードにはすごく力入れてて、評判もいいんだよ!だから絶対行こうねって。……でも、ナイトパレードは来年だってあるもんね」と寂しさを紛らわすように彼女はサンドイッチをぱくりと口に入れた。

「俺が一緒にいこうか?」

「へっ?」

聞いたこともない彼女の感嘆の言葉に声を出して笑った。

「だから、俺と行かない?」

彼女とデート出来るかもしれないチャンスなのに心に背徳感が生まれたのは、俺の役目とは違うと本能的に気付いたから。

「ほらね、それが答えだよ」

思考が停止したかのように動かない彼女に投げかけた。

「ナイトパレードに行きたいんじゃなくて、コウと一緒に行きたいんだ」

「えっ、と」

「あとコウの部屋にもそれと同じ雑誌あったよ。なんでだろうね」

さて、あと一押し。

「コウ、どっかに出掛けるからって節約してたからお腹空いてるだろうなあ」

「コウちゃんにお弁当渡してきてもいいかな?」

「行ってきな」

ランチバッグからもうひとつお弁当箱を取り出して広げたものはそのままに駆け足で校舎へと入っていった。
残された彼女のサンドイッチを口に放り込んだ。
彼女はもう戻ってこないだろう。

次に会う彼女はきっと、もっと輝いているんだろう。
自分に課した罰なのだから、それならばこの罰を受け続けよう。

幸せに満ちる彼女を見続ける罰を。


fin.
―――
ぽっと思い付いて、書いてみました。ふぅ、書き終えることが出来てよかった。琉夏を自分と重ねて書くことが多いので、自分をさらけ出している気になります。
20120510
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