恋するバンビに恋した琉夏
◎琥一→←バンビ←琉夏
愛に気づいて下さい。
コウが君を好きだと自覚しないうちに。
俺の、愛に気づいて下さい。
『君の痕跡と影送り』
そう強く考えるだけで行動に移すことが出来ず、共有出来るわずかな学校の時間が過ぎて、気付けば下校時刻が迫っていた。
教室には、西日が入り込んでまだ残っているクラスメイトの影を濃く映している。
彼女は、もう帰ってしまっただろうか。
コウの隣を歩いているのだうか。
「……誘えばよかったな」
鞄を枕代わりにして机に突っ伏すと、心の言葉が落ちた。
今日、彼女を見かけたは、体育の移動中の彼女とすれ違った一度だけ。
ポケットに入っているケーキの割引券をぐしゃりと右手で握り締めた。期限は今日まで。
でも、すれ違ったとき、彼女が「また、ね」と言ったから。
「また」が今日であることを信じて待っている。
彼女の「また」は明日かもしれないのに。
彼女は気付かないんだ。この気持ちに。
コウは気付くんだ、いつかこの気持ちに。
「琉夏ちゃん」
突然の声にびくりと体が反応して、頭をあげる。
ひょこと、彼女は俺の顔を覗き込むようにもう一度「琉夏ちゃん?」と不思議そうに呼んだ。
「琉夏ちゃんだよ?」
未だに琉夏ちゃん呼びする彼女が可笑しくて、自分でもそう言ってみて可笑しくて。
彼女は訳が分からずに、「どうしたの?琉夏ちゃん」と笑って。
俺の目には彼女の影までも綺麗に映っていた。
彼女の影は愛に気付いたのだろうか。
愛に気付かない、彼女の代わりに。
fin.
―――
少し寂しく、少し悲しく。
琉夏ちゃん呼びの彼女を書いてみました。
甘い話も書きたいのになあ。
20120305