「可愛いでしょ?」

彼女に連れられて琥一は未知なる世界へと足を踏み入れた。



『白き仕掛人のDate plan』
title by シロクマさん


デパートのフロアの一角全てがチョコレートに埋めつくされていて、きゃっきゃと騒ぐ女子高生の大群を目の前に琥一は唖然とする以外にどんな反応が出来ただろう。一刻も早くこの場所から立ち去りたいという琥一の切なる願いは彼女には全く届いていないようで、手を招いてどんどん奥へと進んでいく。
チョコレートを購入しようとする恋する乙女たちが列をなしている。
大体何故この場に連れてこられたのかすら琥一には理解出来ないでいた。

「コウちゃんには手作りのチョコレートを渡すからね」といつもの笑顔で彼女は琥一に言ったあとに、さらににっこりとして「それでね、お願いがあるんだけど」と言葉を続けた。
そんな風にお願いされては琥一が断れないことを彼女は知ってか知らずか。

「ここのお店ね、カップルで来てチョコレートを買うとここのイメージキャラクターの限定チョコレートが貰えるの」
「あー、そうか」

彼女からようやく告げられた目的に、琥一は安堵した。
何かしらの建前がなければこの手の場所には近付けないのだ。
周りを見渡すとこの店にはちらほらと、カップルの姿が見える。


「年に一度しか食べるチャンスがないの。このシロクマちゃんのチョコレート」
「シロクマ……」
「むぅ、話聞いてなかったでしょ。このお店のキャラクターがシロクマちゃんなの」

ショーケース横に立てられている看板を見ると確かにシロクマをモチーフにしたであろうキャラクターが両手を上げてポーズを決めている。

「可愛いでしょ?」
「可愛いつうか、ほよよんとしてねぇか」
「へへ、それがいいの。ほのぼのしてて癒されるでしょ。グッズも人気あるんだよ。シロクマちゃんクッキーも美味しくてよく買いにくるんだぁ」
「そういえば、よく持ってくるよな」
「ふへへ、うん」


チョコレートにケーキ、クッキー、マカロンとショーケースに並らんでいると一種の宝石のようにさえ感じる。


「今日の目的はチョコレートを買うことなんだけど」
「チョコ買っておまけのシロクマチョコが欲しいんだろ」
「うん。どうしよ。そのチョコが決められないの。定番のチョコにしようかでも生チョコも食べたいし」
「……両方買ったらどうだ?」
「ほぇ、あ、そっか。コウちゃん頭いいねぇ」

彼女は琥一に感心しながら、動き回る店員を呼び止めた。
そんなことで褒められてもうれしくねぇな、と琥一は笑う。


「9個入りのチョコと6個入りの生チョコ下さい」


「お待たせ致しました。こちら商品になります。ただ今、カップルでご来店頂いた特典と致しまして、特製シロクマちゃんチョコレートを差し上げていますので、一緒に入れておきます」


「コウちゃん、ありがとね」
「おう」
「すごく幸せ」


会計を済ませ、店員から紙袋を満面の笑みを浮かべて受け取る彼女を見て、こんなことで幸せを感じる彼女とシロクマちゃんに感謝した琥一だった。


「早く帰って一緒に食べよ」
「腹減ったな」
「あの、私のチョコも食べてね」
「あ?当たり前だろ」
「ふふ、当たり前っていいね」


平凡な日常が特別な毎日に変わるのは、きっととても簡単なことなのだと琥一は思ったのだった。


後日、シロクマちゃんの大きなぬいぐるみが琥一の部屋に置かれ、彼女の抱きまくらが琥一からシロクマちゃんに変わり琥一が拗ねることになるのはまた別のお話。

fin.

◆リクエスト
ふたりでチョコ買いに行ってケンカップルいちゃいちゃ
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