恋するバンビに恋した報われない琉夏
(琥一バンビ←琉夏)
例え、他の人を好きになるときが訪れたとしても、きっと彼女と比べてしまうのだろう。
違う瞬間を見付けては、彼女に想いを馳せる。ふと、過去の記憶として思い出し微笑むまでにはまだ時間が必要だ。
「ルカ君は好きな人いないの?」
彼女の左手薬指に嵌められたサクラソウの七宝リングが贈った主の如く主張するように光った。
指輪の存在に気付いたときには、もう全てが遅かった。
人の幸せを壊してまで掴む幸せなど存在するはずのないものだから。
どうして、と尋ねることも出来ずに、指輪はすでに彼女の肌に馴染んでいた。
「俺のことよりさ、コウとは上手くいってる?」
「えっ?」
彼女専用のマグカップにココアを注ぎながら聞いた。
コウとお揃いになっているマグカップは最近彼女が買ってきてWest Beachに持ってきたもの。
俺の分と渡されたものはデザイン違いの色違い。
戸惑いながら笑う彼女の表情が全てを物語る。
「そうか、上手くいってるからWest Beachでコウの帰りを待っているわけだ」
「うん。晩御飯作ろうと思って」
「何だ、つまんない」
「ルカ君の分も作るよ?」
「コウのおまけだろ」
感情さえも噛み殺し、それでも隣にいたいのだ。
天使の彼女から悪魔の囁きが聞こえる。
「好きな人が出来るといいね」
「好きな人か……俺、お前のこと好きだよ」
「うん、私も好きだよ?」
違うだろう。
好きの意味が、重さが、愛しさが。
地獄はここにあったのだ。
「ルカ君には幸せになってほしいもん」
「俺もお前の幸せを願ってる」
彼女の喋り方、笑い方、歩き方までも全てを重ねて何を思うのだろう。
愛した彼女はどこにもいない。
脳裏に焼き付いた記憶は、月日が経つと薄れていくのだろうか。
もしあの日に戻れたとしても同じ道を辿るのだろう。
さよなら、邂逅
fin
―――
「邂逅」という言葉が好きです。意味も音も漢字のデザインも。
20101117