不器用な優しさを知ったとき、みんなに向けられた優しさということにも同時に気付いた。
私だけが特別じゃなくて、みんなに無骨な優しさを分けていた。
私だけを特別にして欲しかった。
これも一種の愛情表現
出会ったときの印象良くなかったよ、とコウ君に言ったときがある。
そしたら「見た目で判断したろ」と少し冷たい反応が返ってきた。
確かに偏見が無かったとは言い切れない、と思う。
だって、やっぱり、
「怖かったもん」
「急になんだ?」
怒っている口調に感じたのかコウ君は少し驚いている。
「ヤンキーだよ」と呟いて言葉を流し、話題を変えようと部屋を眺めた。
コウ君の部屋は相変わらず綺麗に整頓されていて、いつ掃除しているのかなと気になった。
ソファを背もたれにしてカーペットに直接座る。指でなぞるとごわごわとしている。
夏ももう終わりかなって考えていたら、この上に座れ、とシンプルなクッションを投げられた。
いつも優しい。
自然に、優しい。
やっぱり、優しい。
私には直接響く優しさも、周りに伝わりにくいのは悔しい。
…理解されないのは悔しいけど、優しさを独り占め出来てほんの少しうれしい。
「で、ヤンキーって誰のことだ」
「んー、誰だろうね。コウ君は優しいヤンキーだし」
ヤンキーじゃねぇ、ポリシーだ。とコウ君は言ったきり、何も言わずにソファに座っている。
会話のない、ふとした間は嫌いじゃない。
無理に喋らなくてもいい間柄なのだと安心出来るから。
どうしてこの人は自分を貫き通す強さを持っているんだろう。
自分を犠牲にしてまで、何かを守ろうとするのだろう。
真似出来るなら真似したい、でも出来ない。
そんなもどかしい場面に出くわすたびに惹かれていったのかもしれない。
「あっ、ギャップなのかな」
「お前、大丈夫か」
初対面からのギャップが激しいからそう思うのかもしれない。
「うん、ギャップだよ。コウ君」
「はぁ、説明しろよ」
「不良少年が捨て猫に餌あげてる、みたいな」
「全然分からねぇ」
「うん、自分でもよく分からないや」
いつの間にかソファから下りて隣に座っていたコウ君が呆れたように笑った。
どちらともなく肩を近付け、ぴたりと合わせる。
会話はなくとも空気で何となく気持ちが分かった。
俯いたままでいると、コウ君の手が視界に入る。
大きくてゴツゴツしているのに何故か綺麗な手。
手に小さく触れる。
コウ君がどんな表情をしているのか分からない。
緊張しながらも自分からお互いの小指だけを絡めた。
約束して、変わらないことを。
変わらない、優しさでいて。
優しくしないで、誰にでも。
みんなに、優しくして。
矛盾していることなんてどうでもいい。
優しいという事実と、好きだという事実。
その二つがあればいい。
fin
―――
全く次元の違うジャンルで作ってサイトに載せたSSをリメイク。
(名前は違いますが)この広いネット社会で億が一出会っても内緒に。
好きだということは矛盾だらけだということ。
実は琥一が一番優しいと思ってる。分かりにくいから分かったときにダイレクトに伝わる。
20100824