コウ君は背が高い。


こうして街を歩くだけで、周りの人が振り返り、注目の的になっている。


それは、ただ背が高いというだけでなく、格好良さに見てしまうんだと思う。
洋服だってとってもお洒落だもん。

「それは気のせい」とルカ君に言われたけど、私はそうとは思えなかった。

今日だって、フリーマーケットに行くまでに3人の女の子は絶対にコウ君に見とれていた。
女の子特有のキラキラした表情を見たらすぐにその心の中まで手に取るように分かってしまった。


でも、心を勝手に覗いてしまった気分になって虚しくなった。



きっと、私も同じ顔をしていると思う。



隣にいるだけで息が止まってしまうんじゃないかと思うぐらい緊張する。
それもあって並んで歩くのは少し苦手。

手を握ろうとしても、腕を組もうとしても、少し高い位置にあってタイミングが掴めないから。

何度挑戦してみても、空回りしてしまって、結局手は繋げないまま。


怪訝そうな表情のコウ君と目が合った。


絶対に変な子だと思われたぁ、心の中で泣き叫ぶ。


今日はもう手繋げないのかなぁと落ち込んでいると、コウ君は数歩先を歩いていた。

大きな背中がすごく遠くに感じて、喉が熱く苦しくなった。
もしかして、一緒に歩くことすら嫌に思ったのかも。


うっすらと浮かんできた涙に、止まって。と祈るように空を見上げた。
こんな場所で泣いたらもっと嫌われちゃう。







こいつは背が低い。

標準よりも少し低いぐらいだろうが、俺といると更に低く感じる。

街を歩いていると、野郎たちが必ず振り返る。
それはただ単に背が低いことだけが原因じゃないことぐらい分かってる。
認めないわけじゃねぇが、認められたくねぇんだ。
ぁあ、違ぇ、俺だけが認めてればいいんだ。


お前がいい女だってことを。


歩くのを止めてニヤニヤと見るやつもいる。
そんなやつには睨みを効かせ、散らせることしか出来ない。
だか、喧嘩を嫌うこいつにとって、これが最善の方法だ。


さて、さっきから挙動不審なこいつをどうしたらいいもんか……
何かを決意したように腕を振り上げたり、諦めたように下げたりを繰り返している。
かと思えば、手をパンッと合わせてみたりしている。


そんな行動に顔が緩むが、他の野郎の前で気を抜くわけにもいかず、気合いを入れる。


ふと、野郎数人のグループが近付いてくるのが見えた。
隠すように前を歩き、そのグループと何事もなくすれ違う。


安心して振り返ると、何故か少し瞳を潤ませている。
そそられる、と内心思った。


「どうした、具合でも悪ぃのか?」

投げ掛けた言葉に素早く頭が横に振られ、髪が横にさらさらと揺れた。


「ならどうした?」
「……あの、手とか腕とか組むの嫌い?」
「ぁあ?」
「いいっ、やっぱりいい」
「だぁっ、何がだよ」
「……怒ってるもん」
「怒ってねぇよ」
「だって……手も繋いでくれないし、さっきは先に歩いちゃうし。手繋ごうと頑張っても、全然タイミング合わないんだもん」


拳をぎゅっと上げ、力説している姿を見ると意地悪をしてみたくなる。


「お前が小さいんだろ」
「むぅ」


ぷぅ、と膨れた頬を片手で挟み潰す。


「コウ君が無駄に大きいんでしょ」
「……無駄は余計だ」
「栄養は全部身長にいっちゃってるんでしょう」
「んな、わけあるか。だったら、お前はどこに栄養使ってるんだよ」
「学力を伸ばすのに使っています」
「へー、へー。……おい、手繋ぐんだろ」


ひらひらと手を靡かせ、誘うと笑みがキラキラと零れた。


「うん」


繋いだ手には高さがある、
キスの距離も伸びる。
距離が縮む度に変化する表情を楽しんでいることはまだ秘密にしておこう。


自分しか、知らない。


fin.
―――
「怒ってる?」
「怒ってねぇよ」
「ふぁーん、やっぱり怒ってる」
みたいな王道なやり取り好きです。

この書き方は得意ではないと断言できる。
20101011
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