「ん、アイスコーヒー」


琥一は、暑くなっていた部屋の冷房を付けたあと、シンプルなマグカップを2つ持ち彼女の座っているソファに近づく。


「って…嘘だろ、寝てやがる」


ソファに背中を預け既に眠りに入っている彼女。
コーヒーを入れていた間、ひとり考えていたことが急にアホらしく感じ、拍子抜けしながらも、マグカップをテーブルの上にそっと置き、琥一もソファに腰を下ろした。


「有り得ねぇ」


お前、男を何だと思ってんだ。
誰が、こんな状況に耐えられると思ってんだ。


呼吸の動きとリンクして肩が動く。
それが変わることなく一定に繰り返されている。
そんな些細な動きでさえも、琥一は見飽きることなく、見つめる。
そして、琥一とは反対方向に向けられた彼女の頭を自分の肩に寄せ、さらに深い溜め息をついた。


お前と付き合うようになってから、いや、再会してからだろうな、自然と笑えるようになったのは。
守るものは何なのか、
幸せが何処にあるとか、
琥一はそんなことを思いながら彼女の頬にそっと触れた。


いつもとは違い同じ高さに顔がある。
慣れない位置にある彼女の唇に触れようか触れまいか、理性に問いかける余裕すら琥一にはもう残ってはいなかった。


触れるだけのキスを何度かしたあと、素早く深いキスに変える。


「んっ、…ん、ぁ」


琥一が歯腔をなぞると、唇から小さく声がこぼれ落ちる。
何度も角度を変えて味わい、彼女から顔を離した。
唇をぺろりと舐めると、なごり惜しそうに細い糸がプツリと途切れた。
彼女は、酸素を求めながら頬を紅くした。


「何するの、もう」
「…寝てるほうが悪ぃんだろ。ま、キスだけで済んでよかったな。ここじゃさすがに狭すぎる」
「………」
「…ベッドまでお連れしましょうか?」
「コウ君、その喋り方ずるい」


断れないじゃん、と彼女が呟くと、断らせねぇよ、と琥一が笑い再び唇をぺろりと添わせた。

合図はキスで

fin.

――
王子様ぽく、エスコートする敬語を言わせたかっただけ。
冷房があるってことは卒業後ですね←
20100714
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