日曜日。黒尾の機嫌はあまり良いとは言えなかった。それはここ数日の彼女の挙動によるところが大きかったが、昨日から手を変え品を変え「好きなものは何か」と聞いてくる山本の存在もまた黒尾を苛立たせる小さな要因ではあった。
 そしてそんな黒尾は昼休憩の間、一瞬姿を消した研磨を見逃しはしなかった。
 昨日の部活後、普段であれば居残りなんて以ての外で早く帰りたがる研磨が「ちょっと用事があるから先に帰ってくれ」と言ったことを黒尾は不審に思っていたのだ。尚且つ彼女である名前のここ最近の挙動についても気になる点が多かった。夜久と海とは知らない仲じゃないはずだが、わざわざ話をしにくるほど仲が良かっただろうか、と。そしてそれを聞こうとしても夜久も海も「何もない」と言うし、当の名前に聞くのも余裕のない男のすることのようで憚られた。
 そしてこっそりと周りにばれないように研磨の向かった先に足を運ぶと、研磨とそして名前の姿があった。

「なあ、研磨」
「なに」
「何名字とコソコソやってんだ?」

 一連のことを見て、そして黒尾は考えた。夜久、海、研磨、そして名前。あの四人に何か繋がりがあるのか、と。しかし考えても一向に答えは出ず、それでも自身の中に消化不良の感情が燻って面白くないため、とうとう部活帰りに研磨に切り出したのだった。

「……なんのこと?」
「昼間、見たぞ」

 とぼけたところで意味をなさないとは思いつつも一応知らない振りをした研磨に対して、逃げようのない言葉を一つ放った黒尾。そして研磨はどこまで話すべきかと言葉を選ぶようにして話し始めた。

「名字さんに頼まれごとをしてただけ」
「頼まれごと?」
「うん。理由は言えない」
「……なんでだよ」
「名字さんに頼まれたから」
「俺に言わないでくれって?」
「でも、クロもすぐにわかることだから」

 ここまで言えば聡い黒尾なら気づいてしまうだろう、と研磨は思った。けれど自分は決定的な発言をしたわけではないし、名前との約束を破っていることにはならないはずだとも思う。しかし黒尾の反応は研磨の予想に反したものであった。

「あーすっきりしねぇ」
「え」
「……なんだよ」
「クロ、本当にわかんないの?」

 頭をがしがしと掻いた黒尾に対し、研磨は「ありえない」といったような顔でそう言った。だって自分の誕生日が近くて、本人には秘密で何か計画していると言えばもう一つしかないじゃないか。そもそも鋭い黒尾なら自分が言わなくともわかってもよさそうなものだ。研磨は色々と言ってしまいたい気持ちを抑え、どうして黒尾が気づけないのかというところに考えを巡らせた。

「……もしかして、ヤキモチ?」

 研磨の言葉に決まりが悪そうに視線を逸らした黒尾。その反応を見て長年の付き合いから図星であると研磨は確信した。

「クロもそういうところあるんだね」
「なんだよそれ」
「こういうのなんていうんだっけ、恋は盲目?」
「研磨ァ」

 黒尾を茶化す研磨は心底楽しそうで、それに対して言い返すにも言葉が見つからないといった様子の黒尾。その普段見ることのできない珍しい状況に、研磨は更に表情を明るくさせたのだった。

(誕生日まで、あと1日)

:)141116
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