「とは言っても、最初からクロさんには聞きにくいな。手始めに……福永!」
「え……」

 体育館に戻った山本に最初に選ばれた福永は、急に呼び立てられたことに対して何かを言うことなく無表情で山本に近寄った。黒尾にばれずに聞き出すことなんて山本にはできないと思っていた研磨は「最初からクロにいかなくてよかった」と一安心するが、それと同時に山本の人選に一抹の不安を感じため息をつく。

「なあ、聞きたいんだけどよ」

 福永の肩に手をかけた山本は耳元で周囲に聞こえないよう声を小さくして「クロさんの好きなものってなにかわかるか?」と聞いた。

「誕生日プレゼントの参考にしたいって人がいて」

 一応、と研磨が山本の言葉足らずな部分を付け足す。そしてそれを聞いた上で暫く悩んだような素振りを見せた福永は、たっぷりと時間をとってから首を横に振った。

「ってお前もわかんねぇのかよ!」
「ちょっと虎、声大きい」
「あっ! 悪ィ!」

 何か思い出したら教えてくれ、と福永に言い残した山本は「ふざけてないでさっさと帰れー」という黒尾の声に背中をびくりと震わせた。

「クロが帰ったら、他の人に聞こう」
「そ、そうだな」

 部室に戻る途中で、まだ意見を聞いていない一年生の面々に「聞きたいことがあるから着替え終わったら部室に残っていてほしい」と伝える山本見て、研磨は「よくやるよ」と帰り時間が遅くなることを考えて少し憂鬱になっていた。

「おい、クロさんたち帰ったか?」
「聞きたいことってなんですかー?」
「今後の部活のこととかじゃないかな?」
「あー明日も夜久さんとレシーブ練かー」

 この召集に対し真面目な考えを持った芝山に対し、研磨は心の中で小さく謝罪をした。

「多分、校門抜けたと思う」
「よし! じゃあ本題にうつる!」

 山本の言葉に一応姿勢を正す一年生の面々。

「聞きたいことというのはほかでもない。クロさんの好きなものについて、だ」

 一呼吸おいて、「え?」と気の抜けた声を出したのはこの召集を一番真面目に考えていたであろう芝山だった。犬岡とリエーフは小首を傾げて山本の説明を待っている。そして研磨は「ほかでもない」って言ってみたかっただけだな、という思いで山本を見る。

「えっと、もうすぐクロの誕生日だから……」

 なんで自分が、と思わないわけではなかったが、このまま山本に任せておけば理由の説明だけで時間がかかり帰る時間が遅くなると判断した研磨が手短に事の経緯を説明する。それを聞いて「ああ」と納得した三人。そしてうんうんと頷くだけの山本。

「思えば、クロさんの好きなものってよく知らないですね……」
「そういえばこの間雑誌見てAKV38だったらあのこが好き、とか話してましたよ!」
「じゃあアイドルのポスターかグッツか!」

 彼女から誕生日にプレゼントするものじゃないでしょ、と突っ込みながら、ゲームの電源を入れた研磨。しかしそのゲームも昼休みにクリアしてしまったためにあまりのめり込めない。

「もうバレーしかなくないっすか?」
「じゃあバレーのDVDとか」
「それって女子の? 男子の?」
「男子のに決まってんじゃねーか! あ、いや、でもクロさん女子バレーも詳しいよな……」
「女バレの彼女と付き合ってるってことは、AKVよりも女子バレーの方が興味ありそうですね」
「じゃあ、女子バレー選手のサインとか!」
「それ手に入れるの難しくねえか?」

 次々にありえない方向に話が進むことに耐えきれなくなった研磨ではあったが、先に口火を切ったのは意外にも部室の隅でただ話を聞くだけだった福永であった。

「部活で使う物、とか」

 全員の注目が一気に福永に注がれた。そしてそれぞれが福永が喋ったこととに驚いてから、その後に内容に意識を向けたため発言に対しての反応が遅れて一瞬の沈黙が部室内に流れる。

「おお、おお! いいじゃねぇかそれ!」
「一番現実的で実用的ですね!」
「彼女さんからもらったものなら大切にしそうだし!」
「クロさんって一日のほとんどバレーについて考えてそうだし」

 シューズやジャージ、ネックウォーマーにシューズケースと、得意分野だからかここぞとばかりに意見を出す面々。そしてあの発言以来また黙ってしまった福永を見て、研磨は思うのだった。体育館で聞いた時からずっと、このことについて考えてくれていたのではないか、と。
 シューズはサイズやフィット感が本人でないとわからない。ジャージは部活指定のものがあるため、意見は徐々にまとまっていく。そしていくつか具体的なものに絞られたあたりで、研磨はゲームを一旦一時停止にした。

「それくらいでいいんじゃない? もう、遅いし」
「うお! もうこんな時間か! 腹が減ると思ったぜ」
「あーなんかいいですね、クロさん!」
「彼女サンいい人だなー」

 ぞろぞろと部室を出ていく五人の背中を眺めながら研磨の頭に一つ不安が生まれた。

「ねえ、これって結局誰が名字さんに言いに行くの?」
「それは猛虎さんじゃないんですか?」
「一番仕切ってたし!」
「えっ!」

 途端にあたふたしはじめる山本をみて、「そういえば」と犬岡達一年は思い出す。山本が女子の前では極度に緊張してまともに会話ができないということを。

「研磨、よろしく頼む」
「やっぱり」

(誕生日まで、あと3日)

:)141114
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -