「あ、」
「孤爪君!」
「えっと、クロ……呼んでくる」
「まっ待って! 違うの!」

 研磨の右腕のジャージを掴んだ名前と、それに対しあからさまな戸惑いの表情を見せる研磨。放課後の練習が終わり、体育館の中では男子バレー部員が片付けを行っていた。

「孤爪君に聞きたいことがありまして……」
「そう、なんだ。……なに?」

 最初こそ名前の必死さに怯えていた研磨ではあったが、事情を知るにつれてその必死さの理由もわかり警戒を解き落ち着きを取り戻していた。

「孤爪君って黒尾君の幼馴染なんだよね? もし、知ってることがあれば教えていただけないでしょうか」
「うん。クロの好きな物……」
「このとーり! お願いします!」
「や、やめて……そんなんされなくても、教えるから」

 ガバッと頭を下げ神社での参拝のように両手を合わせた名前に対し、慌てて頭を上げさせた研磨はそれからしばらく考えを巡らせてはみたが、ふと表情が曇る。一番好きと言えるようなものがこれといって思い浮かばない。

「昔からバレーは好き。あと秋刀魚の塩焼き……も好きだけど」
「うー……しちりんでも買って目の前で焼いて一緒にプレゼントした方がいいのかな?」
「いや、それはちょっと……」
「だよねぇ」

 肩を落とす名前は、昨日夜久と話していた時同様に思いつめた表情をしている。それを見て協力できなかったことへ多少の罪悪感を覚えた研磨は、慌てたように付け加えた。

「でも、よく、名字さんの話はしてる」
「え! く、黒尾君が?」
「うん。字が綺麗とか、足が速いとか」
「な、なんかそれ小学生みたいだよ」
「あとは……」
「おい研磨何して……ってクロさんのカノジョサン……!」

 ふと体育館の扉から顔を出した山本。そして、研磨が名前といることに対してか、はたまた女がいることに対してか。どちらかは定かでないが、途端に絵に描いたように挙動不審になる。

「こ、こんにちは! えっと、山本君?」
「うえ! はっはひぃ山本猛虎とモウシマス」
「あっ私も……! 名字名前と申します!」
「……なにこれ」

 研磨を挟んで頭を下げて自己紹介をする二人。この状況の意味の分からなさに内心ひきつつも、研磨は山本に事の顛末を話した。

「あの、だからこのことは黒尾君には秘密にはしてはいただけませんか……?」
「も、勿論ッス!」
「虎は知ってる? クロが喜びそうなこと」
「んー……わかんねぇ。他の人とかクロさんにも聞いてみるか!」
「え……」

 サプライズがしたいからこういう話になっているのではないだろうか。クロに知られないようにこうしていないところで聞いているわけで、そもそもクロに気づかれずに虎は聞きだすことができるのだろうか。様々な疑問がは浮かぶ中、研磨はチラリと隣の名前の顔を盗み見ると、期待に満ち満ちた表情で名前は山本のことを見ていた。

「い、いいの!?」
「は、はい! なあ、研磨!」
「え、俺やるなんて言ってない……」
「あっありがとう孤爪くん!」

 本当にそれでいいのか? と思いはしたが、これ以上三人で考えてもロクな答えがでるとは思えないし、なにより名前本人がいいと言っているのだからそれでいいではないかと考えることを止めた研磨。そして依然キラキラと目を輝かせている名前と、そんな名前の視線に気を良くしたのか高笑いをする山本をみて、小さく溜息をついた。

:)141114
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