「夜久君。ちょっとお話よろしいですか?」
「なんだよ改まって」

 普段とは違い改まった物言いをする名前を不審に思いつつも、夜久は一旦片付けの手を止めた。

「なんだよ」
「えっと、相談がありまして……」
「おう」

 普段の名前の姿を思えばこのようなしおらしい態度に最初こそ違和感を覚えたものの、話を聞くにつれてそれが単なる恥ずかしさからくるものだと気付いた夜久は、名前に気づかれないように小さく笑った。

「つまりは、黒尾の誕生日を祝いたいけど何したら喜ぶのかわからないってことだろ?」
「そっそうです夜久先輩!」
「先輩ってなんだよ」
「黒尾君の好きなものとか、ない?」
「黒尾好きなものねえ……」

 考えてはみるが黒尾の好きな物についてはなかなか浮かばない。物、については、だが。そこまで考えた夜久は、自身真剣な眼差しで見つめる名前に気付く。黒尾の好きな者、ならはっきりしているのに。と、夜久は少し呆れ気味に笑う。

「な、なんか思いつきましたか!?」
「いーや、全然」
「そっかぁ……」
「逆にさ、名字はなんか黒尾の好きなもん聞いたことねぇの?」
「えっと、秋刀魚の塩焼きが好きって言うのは聞いたことあるんだけど」
「秋刀魚の塩焼き、かぁ」
「誕生日に振る舞うものとしては、なんかちょっと違うよね」

 明らかな落胆の表情を示して肩を落とす名前。それを見ながら「名字がそこまで悩んだのならばきっと黒尾は何をされても嬉しいはずだ」と夜久は思う。が、それを口にするのはどういうわけか躊躇われた。その代わり、夜久は少しだけ意地悪く口角を上げる。

「名字って、普段黒尾のことなんて呼んでんの?」
「え? 黒尾君、だけど」
「じゃあさ……」

 夜久に耳打ちをされてみるみるうちに顔を赤く染めた名前は、少しばかり疑いのこもった目で夜久を見る。

「そ、それ嘘じゃない?」
「これは絶対」

 自信満々の夜久の顔に、それでもなお視線を泳がしながら躊躇する名前。そうこうしている間に男子バレー部の片付けは終わり、体育館から数人の部員が出て来始めた。その中から黒尾の姿をいち早く見つけた夜久は、これ以上の長居は面倒なことになるだけだと腰を上げた。

「ま、頑張れよ」
「う、うん……」

 ポンと名前の肩を叩いてから、タオルやスクイズを取りに体育館へと向かう夜久の背中を見送りながら名前は口を開いた。

「ありがとね!」
「おう」

(誕生日まで、あと4日)


「なあ、夜久」
「ちょっと相談事されてただけでたいした内容じゃねぇし、俺も名字もお互いに何の気もないからな!」
「……まだ、なんも言ってねぇんだけど」
「面倒事は嫌いなんで」

:)141114
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