都立音駒高校女子バレー部の部室では、主将名字名前が髪を後ろに一つで括りながら眉間に皺を寄せていた。
「名前先輩どしたんですかー?」
「うん、ちょっと……」
「もうすぐ黒尾君の誕生日なんだってさ」
「ちょっ! やめてよ!」
慌てて顔を赤くする名前はさておき、眉間の皺の理由を理解したからか、はたまた理由を知って面倒臭いとでも思ったのか、後輩たちは皆揃って「はいはい」と気の無い返事をしてから自分の作業に意識を戻した。
その反応を見て名前はやや不満気に唇を突き出す。
「ねえ、普通もっとアイディアとか出したりしない?」
「本人に聞けばいいじゃないですか」
「それじゃドキドキ感がないじゃない」
面倒なことに首を突っ込んでしまったと言わんばかりの顔をする後輩たちに、名前は「何かいいアイディアないかなー」と言ってため息をつく。
「プレゼントは私! って言って、身体にリボンでも巻いたら?」
「ちょっと真面目に考えてよ」
「大真面目よ、黒尾君の好きなものなんて名前くらいしか思いつかないもん」
「確かに、黒尾先輩ってちょっと変態っぽい」
「わかる!」
花も恥じらう年頃とは言え、女子だけで集まると好奇心もあいまってやはりこういう話題は尽きない。次々に出てくるワードにいちいち顔を赤らめながら、名前は「そんなことしたらドン引きされる」と頬を両手で包んだ。
「もう今日の練習はサーキットいつもの倍にするから」
「ええ! ごめんごめん、ふざけすぎちゃっただけだから」
「は、反省してます!」
名前の言葉にそれまで大口を開けて笑っていた部員たちも少し姿勢を正す。これでも一応女子バレー部の主将なのだ。
「てか、黒尾先輩のことよく知ってる人に何が好きか聞けばいいんじゃないですか?」
「黒尾君を、よく知ってる、人……」
(誕生日まで、あと5日)
:)141114