「少年を飼い始めた?」
「あーまあ、そういうことになるのかな」
「悪いことは言わねぇ、捕まる前に早く逃がせ。そしてお前は精神科へ行け」

 お昼休み。昨夜強かに酔っ払っていた私を一人で帰したことへの罪悪感からかランチを誘ってきた同期の坂田は、私のことを可哀想なやつだと言わんばかりの目で見ている。
 昨夜は無事に帰れたのかという話題から、私が煮え切らない受け答えをしていたら何があったのかと追求された。尤も私が一人で帰ったことで危ない目にあったのではないかという心配からの追求ではあったが、その坂田の真剣さに思わず昨夜の出来事を覚えている限りで説明せざるを得なくなった。

「でも、なんか落ち着くんだよね。本当、ペットって感じで」
「大切なことを教えてやろう。人間はペットにはなりません」
「いやーやっぱまずいのかな。犯罪になっちゃう?」
「客観的に少年を飼ってるなんて言われたら、お前はイタイケな美少年を家に囲い込んで好きなようにしてるショタコン兼痴女ってことになるだろうな」
「それは、不味いなぁ。会社にいられなくなる」
「いや会社どころか社会的制裁を受けるだろうな」
「そうかぁ」

 どこか自分のことのように思えずに気持ちのこもらない返答ばかりしていたからか、坂田はより一層深い溜息を吐いた。そして、先程と同じように憐みを帯びた目で私を見据える。

「ハァ、お前の死は無駄にしねぇ。全責任は土方にあるわけだしな。一発ぶん殴っとくか」
「勝手に私を殺さないで。てか、土方君は関係無い」
「あー? 関係あんだろ。そもそも昨日はおめーが振られたってんで飲んだわけだし。振られなきゃ少年を拾うこともなかったし、振られなきゃ精神的ダメージを負って思考力が馬鹿になり人間を飼うなんて飛んでも発想に至ることもなかったわけだし」
「ねえ、人の傷口抉って楽しい?」

 もはや面白半分で言っているようにしか思えない坂田を睨むと、坂田はへらっと緊張感のないダラけた笑みを浮かべた。坂田の言っていることは、自分にも当たっているのか否かがわからなかった。

「よくわかんないや」
「いや、自覚しろよ」
「あ、でも一つだけ」
「なに」
「多分、あの子がいなかったら昨日は泣いてたと思う」

 それを聞いた坂田は一瞬申し訳なさそうな顔をした。多分、本気で昨日一人で私を帰したことを後悔しているのだろう。でも、それは仕方のないことで、一緒に飲んでた飲み友達の長谷川さんが酔い潰れてその介抱を坂田はしなくてはならなかったのだ。しかも長谷川さんと共にウチに来るかという坂田の執拗な誘いを断って一人で帰ると言い張ったのは私だし、私も坂田も今日朝早くから会議があって、とてもオールをするような状況でもなかった。

「気にすんなよ坂田」
「気にするわコノヤロー」

 そう言い残して伝票を持って立ち上がった坂田。いつもは金欠だなんだと五月蝿い癖に、こういう時ばかりスマートに奢ろうとするのが坂田という男だ。坂田の気遣いに素直に甘えて、店を出たところで「ご馳走様です」とお礼をいうと、顔を背けた坂田が「おう」と短く返事をした。いい奴なんだ、本当に。だから坂田の前では素直でいられる。
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