「はあ……」
「おいおい、そんな気を落とすなって」
「あの時は俺たちも盛り上げすぎたけどよ、そろそろ気を取り直してもらわねぇと」
「そのため息じゃない! それに土方君まで悪ノリしないで」

 総悟が家を出て行ってから三ヶ月と少しが経った。結局あの日私は駅、コンビニ、ファストフード店、ゲームセンターなどなど、雨の中自分が思いつくところ全てを見て回ったけれど総悟を見つけることはできず、放心状態のまま明け方ごろ家に帰った。

「いやーずぶ濡れでストッキングもボロッボロで、膝から血ィ流しておまけに靴失くしてまで探したってのになァ」
「それくらいにしとけ。鼻血垂らしてたこと思い出させちまうだろ」
「人の傷口抉ってそんなに楽しい? Sなの? ドSなの?」

 二人の言う通り、あの日二人は家で私のことを待っていてくれた。あの時はなんだかんだと慰めてくれたというのに、それがきっかけになったのか、土方君の私に対する接し方が変わった。それまでよりもずっとフレンドリーになったと言えば聞こえはいいけれど、坂田とこうして弄ってくるようにまでになって、端的に言えば扱いが雑になった。

「最悪だわ。私はこれから新しいチームのミーティングなの」
「なんだ? また気まずいチェリーボーイ土方君と同じってか?」
「おい誰がチェリーボーイだ。それにいつの話だ」
「童貞とは同じじゃないわ」
「おい童貞ってなんだコラ」

 まあでも、このくらい軽口が叩ける方が楽だったりするのだ。この三ヶ月ちょっと、総悟を失ったショックは言うまでもなく深かったけれど、こうして二人がそれまで以上に構ってくれたし、仕事も今まで以上に忙しくなったからなんとかかんとかやってこれた。今も総悟への気持ちを断ち切ったと言えば嘘になるけれど、きっとそれは時間がどうにかしてくれるだろう。

「そういや、その名前の入るチームにインターンも入るらしいぞ」
「え、私聞いてない」
「インターンっつっても一人だし、どうやら部長の知り合いの学生らしいけど」
「それってつまりコネじゃない」
「そうですぜィ。結構苦労しやした」

 聞き覚えのある声。癖のある口調。
 まさか、こんなところにいるはずもないのに。そう頭では考えていても、反射的に声のした方を振り向いてしまう。

「そ、ご……」
「あれ、名字ちゃんと総悟は知り合いか? それなら話は早い! いやぁ、世間ってのは狭いもんだなー」
「なんで、ここに……?」
「インターン生の沖田総悟っていいまさァ。これからお世話になりやす」

 急に休憩室に現れた部長である近藤さんの隣で、自己紹介をしてからぺこりと頭を下げたのは紛れもなく数週間生活を共にした総悟だった。突然のことに理解が追い付かないのは私だけではなく、坂田や土方君も同様でたまりかねたのか土方君が口を開いた。

「近藤さんの知り合いってのが、そいつか?」
「総悟とは古くからの付き合いでな。話せば長くなるが最初は昔俺が通っていた剣道場にこいつとその姉ちゃんが……」
「いや、いい。わかった。でも、なんでこの時期にインターンなんて」
「まあまあ、細けェことは追々ってことで。ほら、近藤さん」
「あ、ああそうだった。名字ちゃんには新チームで総悟の教育係を頼もうと思ってな」

 近藤さんの言葉に、余計頭が混乱していくのが分かる。

「私が……ですか?」
「俺が頼みやした。若くて綺麗で仕事できて彼氏のいない人にしてくだせェって」
「まったくこいつは我儘でなあ」
「それと、努力家で不器用で自分のこととなるとてんでダメで本当は弱っちィのにそれを隠して周りに心配かけまいとする可愛い人でお願いしますって」
「あれ、俺そんなこと言われた?」
「総悟……」
「名前さん。俺と今度は恋人からやり直しやせんか?」

 周りに坂田や土方君、近藤さんまでいるという恥ずかしさと、総悟の言葉の嬉しさから、どういうわけか返事よりも先に涙が溢れて溢れて止まらなくなてしまった。それをみた近藤さんは慌ててポケットの中のティッシュを探し出し、それを土方君がいいからと制し、坂田がそっと私の背中を押した。
 押されて一歩前に飛び出した私に総悟はそっと歩み寄り、頭を数回撫でる。その手の感触と暖かさが懐かしくてまた涙が溢れた。

「まったく、名前さんは泣き虫だ」

 そう言った総悟は目尻にたまった私の涙を舌で舐めとった。その行動に頬い熱が集まるのが分かる。

「なっなな、なにしてんの」
「しょっぺ。それより、返事聞かせてくだせェ」

 目の前で悪戯っぽく笑う総悟は、とても年下とは思えないほどに余裕そうで、私はこんなにもいっぱいいっぱいな自分が恥ずかしくて、縦に力なく頷いてから総悟の胸に顔を埋めた。
 そのままゆっくりと息を吸う。懐かしくて優しい総悟の匂いがした。
end

:)150604
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