今日はちょっと飲んで帰るから遅くなる、と名前さんに言われた俺は、適当に夕飯を済まし風呂に入ってからテレビを見ていた。適当にザッピングをしながら特に見たいものも見つからず、録画番組の中から適当に見ていない映画をチョイスする。
最初の十分でそこそこ面白味を感じ視聴継続を決め、コーヒー片手にポテトチップスの袋を開けた、ところで聞きなれないチャイムの音がした。その音がインターホンのものだと理解するのに数秒。思えば俺が来てから一度も鳴ったことがないことに、今更ながら気づく。一度無視しようとしてから、きっと宅配便だろうと思い直し、一時停止ボタンを押して重い腰を上げた。
「はいはーい、ちょっと待ってくだせェ」
一人言のように言ってから、宅配便って印鑑なくちゃ受け取れねぇんじゃなかったかという疑問が頭に過ったが、適当にサインしとけばなんとかなるかと玄関のドアノブに手をかけ、ドアを開ける。
「……誰だ?」
覗き穴から覗いておくんだったと後悔しても遅く、目の前の男は俺を見て怪訝そうな顔をしている。面倒事に足を突っ込む瞬間とはまさにこういうことなのだと思った。
「……ああ、もしかして」
「なんだ、ジロジロと……ここ、名前の家だよな」
「ええ、名前さんの家ですぜ」
ピシッとスーツを着た目の前の男を見て、俺は直感的にコイツが土方だと確信めいたものを感じた。
「アンタが土方サンですかィ」
「……なんで知ってやがる」
やっぱり。辛気臭い顔を顰めて俺を見る目の前の男、もとい土方と俺の間に暫くの沈黙。
「お前、彼氏か?」
「いや……」
ペット、と言おうとして考え直す。いくら別れたとは言え、男をペットとして飼っているだなんて他人に知られるのは名前さんとて不本意だろう。ならばなんといえばいいのか。考えを巡らせているうちに、先に土方が口を開いた。
「まあ、いい。名前が帰ってきたら、コレ、渡しといてくれ」
そう言って茶封筒を俺に押し付けた土方は、「名前のこと、頼む」と言い残して立ち去った。
茶封筒を抱え、暫く玄関に立ちすくむ俺はそれまで考えないようにしていたことが次々に浮かんできて整理が追い付かなくなっていた。
とりあえずはリビングに戻り茶封筒をダイニングテーブルへと置く。
この場所は居心地が良い。名前さんも好きだ。何も困ることはない。様々な考えが浮かびはしたが、結局は俺は一つの現実から逃げているだけなのだ。
「名前さんのこと、頼む……か」
土方の言葉を思い出し、俺は一つの決心を固めた。
そして、その決心が鈍らないうちにと行動を起こすのだった。
テレビ画面では、二人の男女が仲睦まじく手を繋いでいるところで止まっていた。