初めての授業は副担任を務めるZ組であって、そこは噂通りの問題児…というか、良くも悪くも元気すぎる変わり者の集まりであった。そこに自分の弟もいると思うと、少し複雑な気持ちでもある。
 そんなZ組の授業を終えて職員室に戻ると銀時が煙草をふかしていて、喫煙室にいけと他の先生に怒られていたところだった。銀時はというとへーへーなんて気の無い返事を返して、銀時らしい乱雑で整頓されてない机の上にある、これまた汚い灰皿に煙草を押しつける。もはや喫煙室に行く気がないのがわかりきった光景だ。
 そこまできてやっと私の存在に気がついた銀時は面白い物でも見つけたような顔をしてまあ座れ座れと隣のトシの机の椅子をひいた。銀時の机と、隣の打って変わってきれいすぎるほどに整頓されたトシの机は、まるで二人の性格を表しているようで面白い。

「で、どーだった?初めての授業は」
「授業は予備校で教えてたこともあったから…でもそれにしても個性的?っていうの?凄いね、Z組は」
「おめーの弟もその個性的集団の一人だけどな」
「それは言わない約束でしょ」

 ははっと二人して笑って顔を見合わせる。なんだかんだいっても憎めない奴らなんだよなーといってニヤけた銀時の顔はそれはもう気持ち悪いものだったけれど、立派に先生してるんだなと実感させられた。それはそうか。私が燻っている間に、銀時はこうしてここで先生をしていたのだから。

「そういえば銀時四限授業じゃないの?」
「あー?まーいいんだよ。どーせZ組だ。そろそろ迎えがくんだろ」

 四限開始のチャイムが鳴ってからもう十分は裕にすぎている。授業を遅刻する先生なんて銀時くらいだろうな…と思って、さっき感心した気持ちを撤回したい衝動に駆られていると、職員室のドアが勢いよく開いた。

「先生!いい加減時間通りに教室来て下さい!」
「おー待ってたぜーぱっつぁん」

 待ってたじゃないですよ!僕だって毎回こうして呼びにくるの大変なんですから!銀時に詰め寄る黒髪眼鏡の少年は先ほどZ組の授業で見た志村新八くんで、言わずもがな、お妙ちゃんの弟だ。
 さっきの授業でも周りが質問タイムからもはやただのボケ大会になりつつある中一人ツッコミ役に回っていたし、流石はお妙ちゃんの弟。しっかりしてるんだな。

「あ、沖田先生!さっきはすみませんでした…」

 Z組の授業やりにくかったですよね…と申し訳なさそうな顔をする新八くん。全然!大丈夫だから気にしないでー!と言っては見るものの、苦笑いする新八くんになんだかこちらまで申し訳ない気持ちになってくる。正直君はあのクラスでやり過ぎなくらい頑張ってたよ。どうして新八くんがZ組なのか本当に疑問なくらい。まあこの疑問は後に解消されることとなるのだが、それはまた別のお話である。

「ほら、銀時早くいきなよ。新八君が可哀想だわ」
「へーへー、じゃこれ吸い終わったらな」
「なに新しく火つけてんですか!てかどうせ教室でも構わず吸ってんだから行きますよ!」

 新八くんに首根っこ掴まれて咥え煙草のまま職員室を後にした銀時をみて、教室でも構わず煙草吸ってる教師なんてきっと日本中どこ探しても銀時だけなんだろうな…と呆れ半分ある意味凄いと思ってしまった。
 ぐるりと職員室を見まわしてみる。流石にきて早々気軽に話せる先生なんて銀時とトシしかいない私は、昼休みまであと三十分ほどあることを確認すると、計画なしに携帯だけポケットに入れて職員室を飛び出した。久しぶりすぎる母校だ。探検というにはわくわく感は無いに等しいが、それでもあの頃よくいった場所にでもいってみようと思うわけである。
 少し前では考えられない行動をしていると、自分でも思う。ただ、思い出も大事にしすぎて腫れ物のようにしてしまうのは違うのではないかと教えてくれた人のおかげで、今こうして私は思い出しかない母校にあの時のように毎日通い、あの人と同じ立場でここに立っているのだ。
 少し感傷的になって考え事をしている間に、いつの間にか体育館裏の草むらに来ていた。そこはあの時は全く変わっていなくて、でも一つ違うのはここにいる人があの人ではなく、一人の男子生徒だということだ。
 こんな時間にいるってことは、サボりってことかな。そう思って近づくと紫煙を燻らせて視線を斜め下にしていたその彼は、私にちらりと視線を向けた。雰囲気から教師だとわかったはずなのに態度を変えることなく煙草を吸い続ける様子から見て、きっとこういう状況に慣れているのだろうと容易に想像がつく。

「いじめにでもあっているんですか?」
「…あ?」

 不意に口をついた言葉は、昔あの人に言われた言葉であった。明らかに不服そうな彼の隣に勝手に腰をおろし、少しかけた言葉が適当すぎたかなーと思うも、撤回するのも面倒なのでそのまま話を続ける。

「煙草美味しい?」
「……お前、センコーか?」
「なっ!服見てわかるでしょ!勿論先生です」
「じゃあ童顔だな、私服着た生徒に見えらァ」
「そう思ってちゃんとシャツに黒カーデに黒のタイトスカートっていういかにもな教師スタイル決めてきたのに…」

 ククッと喉の奥で笑うような声を出したかと思うと、お前新任か?という不良少年の問いに、始業式いなかったのかなと思いつつもそうよ、と答えると、その不良少年は少し考えたような素振りを見せたあと、口を開いた。

「沖田の姉貴ってお前のことか?」
「総ちゃんのこと知ってるの?」
「総ちゃんねえ…」

 また独特の笑い方をしてから、あんま似てねーなと感想を述べた少年に苦笑いを返しつつ、私も一つの仮説が生まれる。もしかして、この人…

「もしかして高杉君?」
「…そーだけど」

 肯定の返事を受けてああ、と合点がいく。
 銀時が高杉君を進級させるのに苦労したとボヤいていたし、総ちゃんの学校での会話にも何度か出てきたことがある名前だからなんとか覚えていた。今日のZ組の授業での出席確認の時に欠席だったのは、こうしてサボっていたからなのね。

「計画的にサボらないと、卒業出来なくなっちゃうよ」
「サボることは咎めねーのかよ」
「私も人のこと言えた学生生活してなかったからなー」

 銀時と仲良かったなんてまともな学生生活じゃねーだろうよ、と返された。なんだかんだ銀時と仲良いのかな?なんて。

「バイトばっかりしてた時期もあったし、勉強に明け暮れた時期もあったし、恋もまあしたり…波乱万丈ってやつですかね」
「へー」
「私もよくここきたよー」

 人少なくて、落ち着くよね。お前いじめられてたのか。そういう訳じゃないけど!…ここなら煙草吸っててもうるさくいわれねーしな。私は煙草吸わないけどね。他愛もない話を続けて、いつの間にか四限終了であり、お昼休みを告げるチャイムが鳴った。ああ、もうこんな時間なのかと思うのと同時に、五限の授業準備をしていないことに気づく。

「やばい!早くお昼食べてやらなくちゃ!」
「いちいちうるせー」
「じゃ、私は帰るけど、ちゃんと授業は計画的にでるのよ!」

 わかったー?と走りながら高杉君にいうも、もう遠くなってしまったためか、または本当に何も言っていないのか、彼の返事は聞こえない。まあ無言の可能性も大いにあるため、あまり気にせずに私は職員室に向かう足を速めた。

(110821)
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