「お妙ちゃん久しぶり!」
「久しぶり名前ちゃん。
ごめんなさいね、こんなこと頼んじゃって…」
「大丈夫だよ、一日だけだし」

 お妙ちゃんはここいらの界隈ではちょっとした有名人で、そんなお妙ちゃんのお店の一号店とも言えるこの場所は、以前私が働いていたあのお店の跡地に建てられたもの。
 そして人が足りないから…と一日だけヘルプでつくことになった私は、お妙ちゃんにキャンディーというふざけているんだかなんだかわからない源氏名を貰って、ロッカールームにあった少し地味目のドレスに着替える。

「今日一日ヘルプで入ってもらうキャンディーちゃんよ、皆よろしくしてあげてね」
「よ、よろしくお願いします…ってあれ、花子ちゃん?」
「うわー!えらい久しぶりやな元気やった?」
「花子ちゃんこそ、お妙ちゃんに誘われたの?」
「せやねん、おりょうも一緒やで」

 じゃあ、開店するわよ!そのお妙ちゃんの声に、私たち全員ではい、と答える。お店の前の札をOPENと書いてあるものに取り換えてから間もないうちにお客さんが次々に現れる。凄い、毎日こんなにも繁盛しているのだろうか。

「す、凄いねお妙ちゃん…」
「ほら、キャンディーちゃんもあの席について」

 ああすっかりキャンディーちゃんで定着しちゃいそう…とたった一日だとはいえ良く分からない名前で呼ばれることに少し抵抗を覚えながらも、一度受けた仕事だから、と自分に気合を入れる。

「キャンディーちゃんは新人さん?」
「あ、はい!よろしくお願いします」
「せや、水割り四六でお願い」

 テキパキと私を誘導しつつお客さんの相手をするあの頃の印象とはどうも一致しがたい花子ちゃんの隣で、私は昔を思い出して水割りを作る。あのころはこんな高価そうな場所ではなくて、高価そうではあるけれど実質もっと品のない場所だった。
 遠い昔のようで、それでも色あせることなく昨日のことのようにあの頃を思い出す。

「名前、名前!ほら、お見送りいくで」
「あ、はい!」

 小声で名前を呼ばれてハッと我にかえった私は、花子ちゃんの後についてお客さんをお送りするために店先へと出た。

:)110523
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