修学旅行。二年生最後の大イベント、修学旅行。修学旅行と言うだけでなにかが起こりそうな気がするね! と朝からワクワクを隠そうともせずに口にした名前を思い出す。

「なんで修学旅行って寺だとか神社だとかなんかそんなんばっか行くんだろうなー」

 もっと面白れぇとこに行きゃいいのに。と悪態をつく銀時を名前がまあまあと宥めた。

「名前ちゃんはずっと楽しそうね」
「だって、修学旅行だよ! それに、私はみんながいればどこだって楽しいから」

 恥ずかしいこと言うなや、とそっぽを向く銀時ではあったが、名前の言葉に照れているのは一目瞭然であった。そのわかりやすさを茶化せば、そんな俺たちを見て志村と名前は笑っていた。

「あ、ねえねえ! 折角だからみんなで御揃いのお守り買おうよ!」

 色も効能も様々なお守りやお札が並ぶ売店の前で、名前は一つ一つを吟味するように見ていた。正直どれだって構わないが、そんな名前の姿を見ているのが俺は楽しかった。
 春に目標を決めてから、俺たち三人はそれぞれ少しずつではあったが変わっていった。俺は一日の勉強時間が増え、自分なりに教材研究もするようになった。銀時は相変わらずの言動だか、どうやら夏から予備校に通いだしたらしい。名前も家でよく勉強をしているようで、そんな俺たち三人に共通していることは、松陽先生との勉強会をしていることだ。文系理系問わず必須な英語を授業の範囲だけでなく見てくれる。そのお陰か俺たち三人の英語の成績は目に見えて伸びた。先生はよく名前の家に晩飯を食べに行っているらしく、勉強会の場所は学校か名前の家の半々だ。

「学業もいいけど、健康も大事だし……」
「あら、恋愛はいいの?」
「え! な、なんで!?」

 志村と楽しそうにお守りを選ぶ名前を見て、大学生になってもこうして笑っていられたらと切に思った。

「よし、これにしよ!」

 名前が見せたのは赤い色をしたスタンダードなもので、銀時は「結局これかよ」と笑った。会計を済ませて四人で早速袋から出すと、一番嬉しそうにそれを眺めた名前は、ニコニコしながらサブバックに括り付ける。

「これできっと受験も大丈夫!」
「修学旅行にまで来てそんな話やめよーぜ」
「一番危ういんだからもっと買ったほうがいいんじゃねーか?」
「うっせ!」

 班行動は計画通り順調に進んで、あとはホテルに戻るだけとなった時だった。名前が「あ!」と大きな声をあげた。

「あ、どうした?」
「あ、や……ちょっと、お土産買うの、忘れちゃって」
「あら」
「ったくなにしてんだよ」
「あ、でも大丈夫! さっきのとこでちょっと買うだけだから、みんなは先にホテル戻ってて!」

 それからも待っているという俺たちに「大丈夫だから」と名前に念をおされ、渋々三人でホテルへと戻った。その後、どうしてついていかなかったんだと後悔することもこの時の俺は勿論知らなかった。とにもかくにも、名前の言った「何かが起こりそうな予感」というものは的中したのだった。
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