「うお、やばいこれ俺天才かもしれね」
「どれどれー」
「ちょっ勝手にみんなよ」
「おい70点で天才たァ、お前の頭がある意味天才だな」
「うるせー英語苦手なんだよ。そういうお前らはどうなんだよ」

 銀時の問いかけに、トシと顔を見合わせて笑う。そんな私たちを気持ち悪いものでも見るような顔で見る銀時に、先ほど帰ってきた答案用紙を見せつけた。

「……は? 90点オーバー!?」
「名前ここ惜しかったな。これなかったら満点狙えたんじゃねーの?」
「そんなことないよ。トシこそ、よくここ解けたね」
「ちょっと会話が高度すぎるからやめてくんね?」
 
 目に見えて落ち込む銀時に、「銀時だって国語凄かったじゃん!」と付け足す。

「はーい、みなさんお静かに」

 先生の言葉に、騒いでいた私たちもいったん席に着く。

「今回のテストは先生ちょっと意地悪しまして、難しく設定しました」

 銀時を筆頭に途端にブーイングの起こる教室に、先生はでも、と続ける。

「ですが、今回の平均点はいつもよりも高いんですよ。皆さんよく頑張りましたね。他の教科でも、このクラスはよく頑張っていると聞きます。先生、本当に嬉しいです」

 先生の言葉にクラス中が耳を傾け、教室はシンと静まっていた。

「もうすぐ春休みですが、そこで先生からの宿題があります。新学期になれば、みなさん選択授業の兼ね合いで進路のことを大まかに決めなくてはなりません。ですので、春休みはその自分の進路について、みなさん真剣に考えてきてください。四年制大学の文系理系、短大、専門、就職、ほかにもみなさんの数だけ進路はあります。是非、この機会に真剣に自分と向き合ってみてください」

 それではちょっと早いですけど解散としましょうか。と言った先生に、一気に教室中が沸いた。またも先頭きってはしゃぐ銀時をしり目に、私は頭の中で先生の言葉を反芻させていた。

「進路かーお前ら大学だろー?」
「ん、まあな。お前はどうすんだ」
「どうすっかなー大学っつってもやりてぇことねえし。名前は?」
「大学の学部とかって、どこで見るんだっけ」
「進路指導室じゃねぇか?」
「ちょっと行ってくる」

 トシに言われた通り進路指導室に行くと、そこには大学関係の書籍が山のようにあった。先に帰っていいといったのに着いてきた二人も、その光景に少し驚いている。

「こんなにあんのか」
「こりゃ行きてぇ大学探すだけでも至難の業だぜ」
「おお、一年生とは珍しい」

 急に現れた髪の長いお兄さんに、私も含め三人は驚いて小さく声をあげた。

「ハッハッハ、びっくりさせてしまったか。俺は事務員兼ここの相談員をしている桂小太郎と申す。怪しいものではない」
「あ、あの。進路について聞きたいことがあるんですけど」
「ふむ。なんでも言ってみろ」
「学校の、学校の先生になるにはどうしたらいいですか」

 桂さんが一つ顎を撫でる。

「小学校か、中学高校かで少し変わってくるな」
「こ、高校の先生です」
「うむ。高校教師だと教育学部のある大学に行かなくとも、教職課程のある学部にいけばなれるぞ」
「教職過程……?」
「ああ、すまん。何といえばいいか。例えばどこの大学でもいい、文学部に入ったとする。そうすると教職課程のある学校は、その文学部の授業と並行して、国語の教師になるために教員採用試験を受ける受験資格を得るための授業を取ることができるんだ」
「そ、そうなんですか」
「ああ。だから教職が取れると書いてあれば大丈夫だな。基本その学部の専攻の教科の教師にしかなれんが……」
「じゃあ、英文科に行けば英語の先生。数学科にいけば数学の先生ってことですね」
「そうだ。呑み込みが早いな」
「あ、ありがとうございました」

 それから二人と一緒に大学年鑑やパンフレットをいくつか読んで、その間に桂さんがお茶を振る舞ってくれた。時折桂さんの助手のように働くエリザベスと呼ばれる大きなペンギンお化けのような存在も気になったけれど、突っ込んだらいけないような気がして流した。

「なんなんだ、あのエリザベスって生き物」
「そもそもあれは生き物なのか?」
「でも、桂さんの言うとおりに色々動いてたよ」
「うーん……」
 
 帰り道、早速エリザベスの話題を持ち出す銀時に、私もトシも首を傾げる。

「名前、教師になんのか」
「うん、でも憧れだけど」
「……よし、決めた!」
「え、なにを?」
「俺も、教師目指す」
「ええ!? なんで?」
「い、言っとくけどお前に影響されたってわけじゃないからな! 元々ちょっとそんなこと考えてたんだよ」
「ほんとかよ」
「うっせーな、そういうお前はどうすんだよ」
「俺は教師になろうというわけじゃないが、今日の話を聞いて教職を取っておくのはありだなと思った」
「なんだそれ」
「就職難だとか言われてるし、持っておく資格はあるに越したことないだろ。それに普通に大学通いながら取れるし」
「真面目かよ」
「うるせぇ」
「えーでもでも、それじゃあさ!」

 三人の並びから一歩飛び出し、二人に向き直る。

「私たち、もしかしたら同じ大学に行けるかもしれないってこと?」

 私の一言に、二人は口角をニッと上げた。

「阿保かお前。教職のある大学なんていくらでもあんだよ」
「そうだぞーその中で俺たちが同じ場所選ぶなんて確率低いぞー」
「そ、そっか……」
「でもよ、まあ大体目的も同じなんだしさ」
「同じ大学目指すのも、悪かねぇな」
「銀時、トシ……!」

 嬉しさのあまり二人に飛びつけば、二人は悪態をつきながらも私を受け止め笑ってくれた。

「なあ、これ先生には暫く黙っとこーぜ」
「なんでだよ」
「急に発表して、驚かせんだよ」
「いいね!」
「先生泣いちまうんじゃねーか?」

 悪巧みをする子供のように笑う銀時に、私も同じになって賛同する。

「ま、とはいっても一番の不安要素はおめぇだけどな」
「な、なんだよ」
「そうだよー銀時。70点で天才って言ってるようじゃ、大学への道はまだまだだよ」
「お前のためにレベル落とすのなんざ御免被るぜ」
「急に辛辣! なに、お前ら打ち合わせでもしてんの?」

 自分のぼんやりとした思いをしっかりとしたものに変換できたことと、大好きな二人と同じ目標に向かって行ける二つの喜びご、受験勉強という不安さえも希望に変えてくれるような気がした。春休みが始まる前に、先生の宿題をあらかた片づけた私たちの家路を歩く足取りはとても軽いものだった。
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