「はいはーい」
立ち上がろうとしたその時、玄関の扉の開く音と「おーい」という見知った声が聞こえた。姿を見ずとも、こんなことをするのは他にいない。
「お邪魔しまーす」
「おう」
予想通り来訪者は銀時とトシで、二人は両手に大荷物を抱えていた。一体何をしに来たというのだろうか。
「キャンプすっぞ」
その一言を皮切りにズカズカと網戸を開けて庭へと出ていく二人。訳も分からずそれを見るだけの私と、少し不愉快そうな顔をした総ちゃん。
「え、キャンプってどういうこと? これから? どこで?」
「ここで。いーからお前も手伝えって」
立て続けに質問を放つ私に、銀時は得意げな顔をしてそういった。そしてテント用と思われるペグを渡される。
「ほら、総悟おめーも手伝え」
トシに促されるまま、不愉快そうな顔をした総ちゃんは庭へと駆り出された。テントの骨格を組み立てていく銀時とトシ、そしてつなぎ目を支える総ちゃん。瞬く間に布を被せ、テントの形になっていく。最後に持っていたペグを渡して庭の地面に打ち付ける。
「わあ、テントだ……」
「なに当たり前なこと言ってんだよ」
出来た途端に中に入っていった総ちゃんを、トシは満足げな顔をして見守っていた。
「じゃ、次はバーベキューだな」
「これ、適当に切ってきてくれ」
バーベキュー用のコンロを指さしてそういった銀時。そして私にパンパンになったスーパーのビニールを渡すトシ。なんだかあまりの手際の良さに練習でもしてきたんじゃないかとすら思えてくる。
台所で野菜や肉を切り分けボウルに移しながら、庭で楽しそうに火をおこしたり遊ぶ三人を見ていると不意に昔を思い出してしまった。まだお父さんもお母さんもミツバちゃんもいて、みんなでキャンプをしに行った時のことを。お母さんとミツバちゃんはこうして食材の下準備をしていて、私とお父さんと総ちゃんでテントを立てたりしたっけ。
ある程度切り分け終えると、外では三人がホースで水の掛け合いをして遊んでいた。
「ばっかやろ! びしょびしょじゃねーか!」
「勝負は常に非常なもんでィ」
「そうだぞ多串くん」
「誰が多串だ!」
「はいはい、準備できたよー」
二人の悪魔にTシャツをびしょびしょにされたトシと、すっかりそれをどうでもいいというように火の加減を確認する銀時。と、その真似をする総ちゃん。
適当に焼いていくか、と始まったバーベキューに総ちゃんの目は爛々と輝いていた。思えばこの夏休みどこにも連れて行ってあげられなかったな。トシがランタンをつけて、私が隅に蚊取り線香を炊く。段々と陽が落ちてゆくにつれて、周囲も薄暗くなっていく中私たちの周りだけが明るいような気さえした。時折吹く風が汗をひかせて気持ちが良い。
「わー美味しい!」
「やっぱ俺の絶妙な火加減の賜物だろうな」
「いや、俺の食材選びだな」
「いや……」
皆が居てくれるからだよ、とつい素直な感想が口をつきそうになって慌てて唇を噛んだ。急にこんなことを言ってしまうのは、やはり恥ずかしい。
「なんだよ」
「なんでもなーい」
「言えよ気になるじゃねーか」
「言わなーい」
追求してくる銀時とトシに、にやけた顔を見られたくなくて照れ隠しにお肉を二三枚一度にとって頬張った。
「バッカおめーそれ高いやつ!」
「おいひー」
「あ、馬鹿総悟真似すんな!」
私を真似て小さな口でもっちゃもっちゃと咀嚼する総ちゃんに、行儀が悪いと叱るトシ。それを見ながら笑っていたら銀時に「おめーのせいだぞ」と軽くはたかれた。今年の夏休みは今までのようにはできなかったけれど、最後にこうして楽しい思い出を総ちゃんも含めてつくってくれたことが嬉しくて、二人の思いやりに涙が出そうになった。
:)131016