響き渡る怒号。細っそりとした体躯でよくもここまで大きな声がでるものだと、もはや感心してしまう。それに、先ほどから普通口に出すことが憚れる言葉を矢継ぎ早に捲し立てている。可愛い顔なのに勿体無いことだが、いくら部屋のなかとはいえ流石にこれは近所迷惑だろう。しかしそれに慣れきっているのか、私のことを新しい彼女だと紹介した高杉君は、次々と浴びせられる罵詈雑言に顔色一つ変えずに平然としていた。こんな男女の修羅場って本当にあるんだなーと少し人生経験をさせてもらった気分だ。

「最っ低!」

 パンッと乾いた音が響いて、彼女は私に思いっきり肩をぶつけてやっと部屋を後にした。

「ってぇ…」

 よほど思い切り叩かれたのか、高杉君は左頬を手で押さえて痛そうな表情を浮かべている。

「あーあ、痛そ…」
「あーあーじゃねえよ、ったく…」

 左頬に手を当てながら立ち上がった高杉君はそのまま台所へとむかった。この調子であと九つも命令があるのだと思うと、行き先不安もいいとこだ。

「ほらよ、迷惑かけたな」

 いつの間にか戻ってきていた高杉君から、アイスを手渡される。なんというか、意外だ。そして私の思いはどうやら顔に出ていたようで、意外とか思ってんじゃねぇよ、と先に釘を刺された。

「それにしても、因果応報って言葉知ってる?」
「あ?」
「それと自業自得」
「知ってらァ、それくらい」
「こういうこと繰り返してたら、いつ刺されたっておかしくないんだからね」

 話の流れからすると、あの子は高杉君と付き合っていたのに急に別れ話を切り出され、その上ごねていたら高杉君が新しい彼女を連れてきたと言うわけだ。これは恨まれても仕方ない。たとえ女の子の性格に問題があったとしても、可哀想だと思わざるを得ない。

「その時はその時だな」
「バカ!これからはもっと慎重に行動しなさい。
それと付き合うのは勝手だけど、本当に好きだと思える子と付き合った方が全然楽しいんだからね」

 老婆心ながら、という慣用句がしっくりと今の私にはまる。分かり切ったことではあるはずなのに、どういうわけが言わずにはいられなかった。
しかし高杉君はというと私の言葉を聞いていたのかいないのか、アイスを袋のまま先ほど叩かれた頬に当ててへえ、と気のない返事を返す。

「これ、食べたら帰るね」
「ああ」

 アイスの袋を空けて端っこをかじる。テレビのリモコンをいじる高杉君の視線は私に向かない。

「なあ」
「なに?」
「お前、これから銀時んとこ戻るのか」
「え、ああそうだね。
帰っても総ちゃんいないし、飲み直しかな」

 きっと銀時はさっきの説明を求めてくるだろうし。そこまで思って、それは言わないでおいた。このことを銀時に話すべきだろうか。それはつまり私がお妙ちゃんのお店を手伝ったことから説明しなくてはならないわけで、少々面倒である。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -