久しぶりに呑もうよーと珍しく名前の方から誘ってきた。少し驚きはしたものの、総ちゃんがお泊りなの、の言葉でああ、と納得する。土方も誘ってみたが、仕事が片付かないからと断られた。

「どこいくー?」
「ん?あーどうすっかー…あ!」

 いきなり大きな声をあげた俺にびっくりしたのか、名前はどうしたの?と首をかしげている。
 久しぶりだし男だし、そう思って名前から誘いを受けたときから今日は俺が奢るつもりだった。しかし、本日は月末。加えて昨日原付に給油して、煙草も一気にツーカートン買ってしまっため俺の財布にはそんな現金はない。

「俺んちでもいい?」

 きたなーい!と俺の家のリビングに足を踏み入れた瞬間にそう言って足元のゴミ袋を軽く蹴った名前。しかたねーだろ、とそのままスーパーの買い物袋を持ってズカズカと奥へ進んでいく名前の背中に投げかける。
 こんなことなら掃除しとけばよかったな…と後悔しつつ、あんま引っ掻き回すなよ!と早々に釘を刺す。
と、そこで重大なことを思い出す。やばい、レンタルしたAVまだ返してなかった…しかもあれ結構キワもの…!買ってきたものを袋から出す名前に気づかれないようにそのDVDを探す。

「お酒半分くらい冷蔵庫いれとくねー」
「おー」
「あとなんか適当につくっちゃうよー」
「おー」
「…お願い見ないで!彼氏の前で他の男と…見られるとワタシ興奮しちゃうのっ!」
「お、お前…!」
「そっかー銀時は寝取られがいいんだー」

 それとも寝取る方?とDVD片手に薄ら笑いを浮かべる名前。最悪だ…と思いながら、それを名前の手から奪ってレンタルビデオ屋の青い袋にしまう。

「カンパーイ!」

 テーブルには買ってきた漬物とナッツと刺身と、名前が即席で作った炒め物や焼きナスしいたけなど。まだ乾杯したばかりだというのに、名前はもう二缶目に手を付けていた。

「あー旨い、本当料理上手だわ」
「自分でいうな、自分で」
「銀時もたまには自炊しなさいよね」
「ちゃんとやってるっつの」
「三食卵かけご飯は自炊とはいえないからね」

 いい年だしそろそろ結婚しちゃえばいいのに、と笑う名前に、お前もいい年だろと返す。しかしそんな軽口とは裏腹に、心はズキンと痛んだ。
 名前はまだ、先生のことを思っているのだろうか。いや、思っていないはずがない。もう、新しい恋はしないのだろうか。

「いい人いないの?」
「いねーよ」
「だよね、いたら私と金曜の夜に宅飲みしたりしないよね」
「うるせー、名前はどうなんだよ」
「え?」
「名前はいねーの?いい人」

 一瞬、ほんの一瞬、名前の心の動揺がみてとれた。それは本当に一瞬で、きっと長い付き合いの俺や土方にしかわからないほどのもの。しかし、それはまぎれもなく名前の心の乱れ。

「いたら銀時なんか誘いませんー」
「うぜー」

 ま、独り者同士今夜は飲み明かそうぜ。と名前にグラスに注いだ焼酎を手渡す。
 美味しそうにそれを飲む名前は、きっと自分に寄せられている好意になんて気づいていないんだろうな。
でもそれでいい。
 長い間すぎて、俺自身もこれがどういう好意なのかわかりかねる。だからもし名前がそう想ってくれているならば全力で応える所存ではあるけれど、自分からアプローチするつもりはない。そんなことでこの関係を壊してしまいたくはないし、なにより困らせたくない。

「そういえば高杉くんてどんなこ?」
「あー高杉か。
典型的な不良だった…らしいけど、今は可愛いもんだな」
「ふーん」
「なんかあったか?」
「ううん、銀時は生徒想いだなーって思って」
「なんだそれ」

 気恥ずかしくて悪態をつくと、名前は照れちゃってまーと的を得たことを言ってきた。

「でも私もいい子だと思う」
「なんで?」
「だって総ちゃんの友達だもん」
「はー、ブラコンもほどほどにしとけよなー」

 満面の笑みでそう言った名前にため息をつきながら、俺は新しい缶に手を付ける。
 それから暫く他愛もない話を続け、酔いもいい感じにまわってきた頃。ピーンポーンと電池をかえたばかりのうちのインターフォンが鳴った。こんなおそい時間に?

「だれー?」
「わかんね、今十二時まわってるしな…」

 とりあえずみてくるわ、とのっそり立ち上がった俺に、暴漢だったら退治してねーと本気ともとれない言葉を投げかける名前。
 まったくこんな時間に誰だよもしかして土方か?なんて思っている間にまた呼び鈴が鳴った。

「はいはいはーい」

 誰ですかー?と覗き穴を覗くとそこには珍しいやつ。
とりあえずカギをあけて、ドアを少し開ける。

「子供はもう寝る時間ですよ」
「うるせー」
「どうしたんだよ」
「家に入れなくなった」

 そう言い捨てて俺をまるでいないもののように無視して、ずかずかと中に入ろうとする高杉。家に入れなくなったってどういうことだ?こいつ確か一人暮らしだったはずなんだけど…。思うことはたくさんあったけれど、とりあえず高杉の後を追いかける。

「あれ?」
「…名前?」

 高杉を追って室内に戻ると、酒盛りをしていた名前と高杉ははち合わせをしている。名前はというと状況を読み込めないらしくじっと高杉を見つめていて、高杉も高杉で何か考えている様子だった。

「まあとにかく座れ」

 遠慮なく俺の隣に座り込む高杉。とりあえずなぜこうなったか事情を聞く必要がある。

「で、どうした?」
「女」
「おんなぁ?」
「別れるって言ったら俺の家から出ていかなくなった」
「お前なー」

 大体事情はつかめた。いつものことと言うやつだ。高杉はなぜかモテる。ムカつくほどにモテる。大方高杉の気まぐれで付き合って、気まぐれで別れて泣いた女の子がどれほどいたことか。まったくもってムカつくことこの上ない。

「まーとにかくだな」
「ちょっと来い」
「は?」
「名前ちょっとこい」

 にやりと口元だけ笑った高杉が名前の腕を掴む。俺はまったく状況を理解することができず、そしてそんな俺と一緒だろうと名前を見ると、えーなんて言いながらも立ち上がっていた。…あれ?

「一回だからね、一回」
「わあってるよ」
「じゃあ、ちょっと銀時行ってくるね」

 すぐ帰ってくるからーと言い残して高杉に連れられ俺の家を後にした名前。そしてこの家に取り残された俺は、未だこの現状を咀嚼できずにいた。
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