「せっ、先生!」
「おや、沖田さん」

 今日も天気が良いですね、と朗らかに笑った吉田先生は、資料の整頓を一時中断し、私に向き直った。
 私はというと言いたいことが山ほどあって、しどろもどろになりながらも口を開く。

「あ、ありがとうございました!」

 本当に、本当に…と継ごうとして、でも言葉にはならない。先生への感謝の気持ちは言葉などでは表しきれないし、それを表そうとしただけで、こんなにもこみ上げるものがある。

「沖田さん…」

 嗚咽をもらし勝手にしゃがみこんだ私の頭を先生はそれはそれは優しく撫でてくれた。まるで、今までよく頑張ったね、と言っていてくれているようで。余計に溢れる涙を、先生はハンカチで抑えてくれる。

「あなたは子供です。もっと周りの大人に甘えて良いのですよ」

 一呼吸おいて、続ける。

「私はあなたの支えになりたいと、願っていますから」

 その言葉が嬉しくて、たまらなく愛おしくて、変に高鳴る鼓動を、泣きすぎゆえの呼吸の乱れと落ち着かせることがその時の私には精一杯だった。

「ありがと、ございます…」
「せっかく美人さんですのに…こんなに泣いては勿体無いですよ」

 頬を撫でる先生のハンカチからは優しいひだまりみたいな匂いがして、余計に泣きたくなってしまう。それは昔々、お母さんとお父さんとミツバちゃんと総ちゃんの五人で暮らしていた時の、あたたかい家を思い出させるようで。

「名前…?」

 家に帰ると真っ先に総ちゃんのバタバタというせわしない足音が聞こえきた。二階から走ってるんだな、なんて思っていたけれど、私から見えない位置で立ち止まって、こちらを覗くように私の様子を伺う総ちゃん。それがどうしても愛おしくて、今すぐにでも抱きしめてしまいたいくらい。

「総ちゃん」

 びくりと総ちゃんの肩が動くのがわかる。

「寂しい思いさせてごめんね、これからは…」

 一緒にテレビみたりゲームしたりしようね、と続けると、総ちゃんは目に涙を浮かべておかえり、と私の胸に飛び込んだ。まだまだ小さな私の弟。こんな小さい身体で毎晩一人ぼっちで私の帰りを待ってたなんて、考えただけで胸がキュウと苦しくなる。

「俺が名前を守るから」
「総ちゃん…」

 あたたかい総ちゃんからは、先生のハンカチと同じ懐かしい匂い。
生意気言っちゃって、と茶化したかったのに、総ちゃんの真剣な顔を目の当たりにして、ありがとう、しか言えなくなってしまった。
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