名前が二階の部屋で総悟を寝かしつけてから、一階へと降りてくる。
 総ちゃんが眠るまで一緒にいるだなんて久しぶり、とそう零した名前はさっきとは打って変わってあまりにも穏やかな表情をしていた。

「先ほどは失礼しました。頬、冷やさなくて大丈夫ですか?」
「私が悪いし、大丈夫です」

 名前の頬を触って、手加減したつもりだったのですが、沖田さん色白いですし…と心配する松陽先生に、名前は少し照れたように大丈夫です、と繰り返していた。
 そして、なんだかんだで帰るタイミングを失ったマダ…長谷川さんも同席している。

「沖田さん、みなさんに言うことはありませんか?」
「ごめんなさい…本当に、ごめんなさい」

 松陽先生に促されて名前は俺たちに向かって深々と頭を下げた。その目にはさっきあんなに泣いたばかりだというのにまた、うっすらと涙がたまっている。

「頭あげてくれ、そんな、謝ってほしくて俺たち来たわけじゃねーし」
「わかってくれりゃ、それで十分だ」

 顔をあげて、涙目で小さく笑ってありがとうと言った名前に、妙に胸が高鳴ってしまった。でもよかった、俺たちはずっと名前の本当の笑顔が見たかったのだから。

「それで、私から一つお聞きしたいことがあります」
「はい…?」
「沖田さんは、あのお仕事を続けたいのですか?」

 驚いたような表情をした名前は、そこから小さく息を吐いて、好きでやっているわけじゃありません、と一言。
 それを聞いた松陽先生は小さく笑って自らの顎に手を添えた。

「でも、総ちゃんがこれから進学したりするのにお金は必要で…!」

 親戚に、そこまでしてもらうわけには…と斜め下に視線を寄せる名前に松陽先生は、それが大丈夫なんですよ、と続けた。正直俺も土方ももちろんマダオもその問題についてはどしようもできないから、実質松陽先生以外の俺たちは吃驚したような顔をして先生を見つめる。

「沖田さんはご両親があなた方のために保険金と貯金を残されているのを知っていますか?」
「い、いいえ…いっぱいいっぱいでしたから…」
「まあ相続税などいろいろとありますからこれが結構大変なんですけど、でもやっと今になってそれが入るそうです」

 知り合いの税理士にきいてみたんですけど、全て私が沖田さんの親戚を介して手続きしておきましたので。と先生は鞄から何枚かの書類と通帳をとりだした。

「もう一人でなんでもかんでも抱え込むのはやめにしてください」

 土方くんが調べてくれましたけど、あのお店凄く危ないところみたいですよ。と続ける松陽先生に抱きつくように名前は泣いた。
 さっきもそうだけど、こんなにも感情をむき出しにした名前はとても珍しいわけで、俺たちも自然と頬が綻ぶ。
 やっと、俺達も名前に関わることが出来るんだ。
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