高校の入学式。
 俺にはちょっと難しいと言われた高校になんとか合格できて、その結果立てたこの場所ではあったけれど、とてもすがすがしい気分とは言えなかった。
 この春休み、たくさんのことがありすぎた。ありすぎて、俺なんて頭がパンクすると思ったくらいだ。でも、一番つらいはずのあいつが、涙一つ見せなかった。いや、正確には俺たちの前で、かもしれない。でも、一番心を許してもらっていると思っていた俺は、その事実もまた辛かった。俺たちはいつも一緒だったから、俺たちの間で隠したり我慢したりするのは無しだと勝手に思い込んでいたんだ。

「銀時、おはよー!」
「お、おう!」

 見慣れない制服を身にまとって、俺の背中を叩きながら挨拶をしてきたのは名前で、そのあまりの元気の良さに俺は一瞬たじろいでしまう。
 すると後ろから土方も顔をのぞかせて寝ぐせ酷ぇぞ、なんてわかりきった嫌味を言ってきた。でもこのやり取りで、良かったいつもの感じだ、と納得できるわけもないけれど。

「今日も自慢のマヨネーズでセットしたんですかコノヤロー」
「んなわけあるか、その髪全部引っこ抜くぞ」
「もー二人とも入学式から喧嘩とかやめてよねー」

 だけど俺もこの雰囲気に合わせないとならなかった。別に誰に強要されたわけでもないけれど、でもここで俺が何か切り出してしまったらすべてが終わってしまうような気がして。
 いまいち身の入らない土方との言い合いは、どうやら土方も同じ気持ちのようで、余計に中途半端なできになってしまった。いつもだったら、すらすらと罵倒の言葉が出てくるのに。なんで人間ってのはこう器用になれないものなんだろうか。

「あ、そういえば私新入生代表のあれ任されてるんだった!ごめん、先に行くね!」

 だから名前のその言葉で俺たち二人は救われたようなものだった。
 名前が見えなくなるまで目で追ってから、俺と土方はまるで打ち合わせでもしたみたいに綺麗に揃ってため息を吐いた。

「お前と一緒なんて気持ち悪いな」
「仕方ねーだろーが、それより」
「…わかってる」

 無理しすぎだろ、と呟いた土方に俺も同意の意を示す。
 名前の両親と姉ちゃんが突然亡くなってからまだ日は浅い。どうやら名前もその弟の総悟も親戚に引き取られはしたらしいが、結局新学期から両親の残したあの家に姉弟で二人暮らしを始めたらしい。
 と、ここまでが俺の名前を頼らずに仕入れた情報、つってもまあ親から聞いた巷の噂話の一つだが名前の身辺について大体のことは理解できた。
 それを大まかに土方に話せば、まあ俺もいくつか親から聞いた、と返ってきた。
 噂がめぐるのは本当に早いものなんだとは思ったが、まあそれだけ衝撃的な出来事であったことは頷ける。

「なあ、お前も辛いとは思うけどよ」
「なんだよ、お前がんなこと言うとか気持ち悪ぃ、熱でもあんじゃねーのか」
「…俺達で、支えてやろうとか思うわけよ」
「…ああ」

 何もできないかもしれないけれど、そしてきっと土方だって思っていることは同じだろうけど、でも俺はどうしても俺たちということをお互いに認識しておきたかったんだと思う。一番辛い状況でもなお、他人を気遣っている名前の事を俺は見ていられなかったんだ。それでいて自分だけでは心細くて。

 まっすぐに前だけを見据えて、新入生代表の挨拶を述べる名前は凛々しく、周りの同年代とは格段に大人びて見えて、それでいて背中はとても小さい、そんな印象で。
 周りからあの子が一番だったんだね、とか可愛いね、なんて声が聞こえてきたが、俺は何故か込み上げてくるものを抑えるのでいっぱいいっぱいだった。

:)091226
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