※夢主がビッチです。倫理的によろしくないお話なので、苦手な方はご遠慮下さい。



 「お前、ビッチだって噂になってるぞ」
「……へえ」

 放課後の教室には男と女の影が一つずつあるだけで、校庭からの野球部の声かけがやけに大きく感じるほどの静けさだった。
 失礼とも思える言葉を浴びせられた名前はケロリとしていて、尚も銀時から視線を逸らさない。

「いいのかよ」
「んーまあ、あながち間違いでもないしね」
「……少しは否定しろよ」

 お前がそんなんだから女子達の噂の格好のネタにされるんだ。喉元まで出かかったが、それを言ってもきっと名前は何も変わらないのだと気づいた銀時は口を閉じる。

「てかあながちって言ってみたかっただけで、事実だからね」

 カラカラと鈴の音のように可愛らしい声で笑う今の名前からは、複数の男と肉体関係を持つ女だなんて想像もつかない。綺麗に手入れされた髪は、真っ直ぐで校則を順守して真っ黒だ。短かすぎず長すぎずなスカートから覗く白い脚も、スラリとしているのに柔らかそうで。ふわりと香る香水も、シャンプーや家の匂いかと思うくらいに自然に香しい。全てが彼女の本質とはかけ離れていて、それでいて彼女の本質通りにあざとい。そこまで考えて銀時はハッとして意識を戻す。

「銀ちゃんにも最初に言ったでしょ? 私には貞操観念とか、そういうのないよって」
「わあってるよ」
「じゃあ今更どうしたの?」

 どうしたの?と言われても、銀時自身、自分がどうしたいのかわからずにいた。
 最初は好きになりかけて手を出そうとしたら、他の複数の人とも関係があるからそれでもいいなら、と言われた。愕然としたけれど、なんとなくそんな気はしていた銀時は、そのままそれを受け入れた。そこまで高ぶっていなかった好きという感情を抑えることも容易いことであった。そこから相性の良さ故に、お互いがどちらともなく身体を重ねてきた。名前の一人暮らしをいいことに、二週間ほど住み着いたこともある。あのころは帰ってこない日があってもそこまで気にならなかった。そういうことを詮索するのは野暮だとすら思っていた。それなのに今になって、どういうわけか知らない女生徒たちの噂をきいて、いてもたってもいられなくなったのだ。銀時は自分でもわけがわからないと頭を抱えた。

「俺もよくわかんね」
「バカだから?」
「うるせえ、おめーもバカだろ」
「バカだよーだから銀ちゃんと一緒」

 もし名前にもうエッチすんのやめよう、なんて言われたらどうしようと考えてしまった。そんな銀時の心中なんて露知らず、名前は小さく笑って銀時の顔に自身のそれを寄せる。本来ならばここですぐに唇を重ねて行為に及ぶ銀時であったが、今回ばかりは少し躊躇って喉を鳴らすだけだった。廊下から女生徒の笑い声が聞こえる。

「バカはバカらしく、したいことだけしてたらいいんじゃない?」

 段々と近づく廊下の笑い声には、きっと名前も気づいている。それでも扇情的な表情を崩さない名前に唇を重ねられた銀時は、もうなにも考えまいと眼前の柔らかなそれにしゃぶりついた。

:)130209
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -