放課後のプールにあるはずもない喧騒。すぐ傍では昨日まで風に優雅になびいていた笹が小さく音を立てて燃えていた。
 何故に今プールなんかにいるのかと言えば、それはZ組の授業態度の凄まじさゆえ。まあ簡単に言えば見るに見かねた学年主任のとっつぁんからのペナルティーというわけだ。
 まあそんなペナルティー貰ったところで、懲りるわけもないのがZ組の特色と言えば特色なのだけど…。

 まるでその代表のように目の前で派手に水を撒き散らすのはあの忌々しいチャイナで、それに加勢をしつつ攻撃をされているのがうざったい桂。いつもならその中の自分の姿もあって、きっと土方さんあたりを虐めていたに違いない。だけど、今はとてもそんな気分にはなれない。

 誕生日を特別視していたといえば、そうとは言えなくて。ただ、自分の気持ちの整理がついたのが最近で、ならばこの日に…と意気込んだだけの事。そして振られた、ただそれだけのこと。

 思えば名前とはほぼ幼馴染みたいなもので、昔から兄妹みてえにしてきた。少し引っ込み思案な名前を、俺が手助けしてやるのはごく当たり前な事で、いつだって名前が困っていたら駆けつけてやった。勿論名前の為だなんて言った事はない。けれど、俺はそうやってここまで生きてきた。
 昔はずっと俺にべったりで、何度も何度も好きだといわれた。引っ込み思案な名前のことを思えば、相当の勇気を振り絞っていたことは容易に想像できる。でもそれは小学生くらいの時の話で、まだガキだった俺は恥ずかしくてそれを軽く受け流していた。
 そのくせずっと好きでいて欲しくて、自分を想っていて欲しくて…。我ながら本当に身勝手だと思う。
 だから名前の好きな人があいつになったと気がついたとき、本当に目の前が真っ暗になった。ああ、今まで俺は何をしていたんだ、と。
でも考えたところで答えなんて出ないことは明らかで、俺なりにいろいろと考えて、当たって砕けろ、という結果に行き着いた。
 それで気持ちを伝えて、玉砕。まあわかっていたことだけど、実際に面と向かって言われるのはきついものがある。それでも、最後は笑ったんだから、そこだけは褒めて欲しい。きっと彼女は俺の思いに気づかされて、動揺するだろうし、きっと罪悪感なんてものを感じているだろうから。
 だけどなんでだろう、今はなんだか無性に気持ちがすっきりとしているんだ。まだ好きだという気持ちは寸分変わりないと言うのに。気持ちを伝える前より、ずっと清々しい気分で。


「おい、名前ー」
「え、何総ちゃ…っ!」


 そうだ、昔から俺がこいつの兄貴みてえなもんで、今はそうでもなくなってはきたけれど、引っ込み思案なこいつが、銀八を好きだといったんだ。ならば、ここは男らしく、ささやかな祝福を送ってやろう。





 ハッピーバースディ、俺
成長することは、大人に近づくってことで。
大人になるという事は、少し寂しいような、哀しいような、それでも少し温かいような気がした。


っと、あっぶねーなあ
はは、すいやせん。手が滑っちまって、
………、
(が ん ば れ よ)
……!そ、総ちゃん…、


 俺の計算はやっぱり的確で、ひょいと押した先にはちゃんと銀八が名前を支えてくれた。抱きかかえられた名前は顔を真っ赤にして、そして俺のその言葉に更に顔を赤くさせて、小さく笑った。

080708
ハッピーバースディ、沖田君。
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