買い物から帰ってくると、万事屋の前で口の周りにクリームをべったりとつけた神楽ちゃんが定春の散歩に行くのに出くわした。その様子から神楽ちゃんに聞くまでもなく今万事屋には名前さんが来ているということがわかった。

「トイレットペーパー買って来ましたよー」
「おー」
「あ、お邪魔してます。ケーキあるよ新八君」

 やっぱり。万事屋のソファに銀さんと向かい合って座っていたのは予想通り名前さんであった。彼女は来るたびに毎回ケーキをお土産にもって来てくれる。その時点で、とてもわかりやすい人だ。

「今お茶淹れるね」
「あ、いやいや僕がやりますよ」
「あ、俺いちご牛乳で」

 アンタも少しは手伝えよ! と考えるまでもなく身体に染み付いた反射で突っ込んでしまう。

「いいっていいって。新八君も座ってて」
「ほ、本当にすみません……」

 慣れた手つきでお茶を淹れる名前さん。来るたびに僕がいないと彼女がこうしてやっているのだなと感じる。この家の人間は本当にこういうところで気が利かない。

「はい、どうぞー」
「ありがとうございます」
「おー」
「あ、チーズケーキなんだけど大丈夫?」
「おー」
「銀さんはもう食べたでしょ」
「ちぇー」
「……私の半分食べる?」
「いいのかよ。うわー結婚してくれマジで」

 はいはい、と満更でもない風に銀さんを往なしてから、名前さんは食べかけのそれを銀さんに差し出した。僕はそれをみながら、神楽ちゃんがケーキをさっさと食べて定春の散歩に出かけた意味を理解する。

「……んで、なんかあったか?」
「うん。なんか網戸の建て付けが悪くて……」
「ったく。……明日の昼でいいか?」
「うん! ありがとう」
「おー」

 そして銀さんは名前さんをぞんざいに扱っているように見せてはいるが、これはただの好きな子にはあえて無視や意地悪な態度をとってしまう、小学生男子病のようなものだと僕は思っている。だから先ほどのようにたまにふざけての「結婚してくれ」のような言葉しか言えない。
 ただ名前さんが来ると大抵機嫌がいいし、普段ならば請け負わないような細々とした面倒ごともなんだかんだ手伝っている。つまりは惚れた弱みも重なって、名前さんには甘いのだ。

「うめー」
「ふふ、良かった」

 ニコニコと銀さんがケーキを食べる姿を見つめる名前さんは恋する乙女にも見えるし、お母さんのようにも見える。どうして名前さんが銀さんを好きなのかはよくわからないけれど、いちいちこうして見せつけられる身としてはさっさとくっついてくれたらいいのにとも思う。
 だいたい毎回お土産がケーキという時点で、この白髪天パは察するべきだ。名前さんの健気な姿と、銀さんの隠し切れていない好意は、みているこっちが恥ずかしくなるほどの初々しさを孕んでいる。だからきっと神楽ちゃんは早々に万事屋を出たのだろう。

「どうだった?」
「すごい美味しかったです。ご馳走様でした」
「いえいえ。次は自分で作ってみようかとも思ってるの」
「やめとけやめとけ。どーせ失敗するんだからよ」
「あら。そんなのやってみないとわからないでしょ」
「残飯処理は御免だからな」
「いいわよ。そしたら真選組に差し入れするから」
「……あんな甘味の味もわからねぇ馬鹿共にくれてやるなんてケーキに失礼だろ。ケーキも俺に食われたほうが幸せだ」
「失敗しても食べてくれるの?」
「ケーキのためにな。俺は甘味王なんだ。世の甘味達を幸せに食ってやるのが俺の義務だ」

 阿呆らしい。食べたいならそう言えばいいし、真選組の人たちに嫉妬するくらいなら最初から「楽しみにしてる」くらい言えばいいのに。
 それでもニコニコと何を作ろうか銀さんにお伺いを立てる名前さんも、ニヤニヤと隠しきれないだらけきった表情でそれに応じる銀さんも、もうどっちもどっちだ。いい歳した大人のくせに、なにやってんだか。
 羨ましいだとか、決してそんなんじゃない。そんなんじゃないけど、それでも二人がお似合いであることに少し苛立ちはする。いい歳した二人の、中学生のような恋愛を毎回毎回見せつけられるのは、やはりたまったもんじゃない。

「じゃあ、腕によりをかけて頑張るね」
「おー」

 だからさっさとくっついちまえばいいんだ。

:)140919
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