遅刻サボりは当たり前、授業は自習率高めで校内でも平気で煙草をふかしている教師なんて、世界広しといえど俺くらいのものだろう。いつPTAから苦情がくるかわかったもんじゃない。が、それでもなんだかんだ俺がこの学校にいられるのは、あのZ組をどうにかする人間が必要だからだ。多分。ただ、問題児ばかりを集めたクラスではあるが、こうした行事で無駄に高い能力を発揮するのもZ組だ。元より個々の能力でいえば一級品の奴らだ。少し協調性を覚え結束をすることができたら、それは即ち結果に繋がる。
 しかし、そこが一番難しい。一年の頃から奴らの担任をしているが、最終的に一生懸命チームプレイに徹したクラスが勝っていく様を何度も目にした。個々の能力とその場の盛り上がりて出来上がったチームなど、所詮そんなものだ。練習の段階ですぐさま横道にそれて乱闘騒ぎになり、まともな練習などロクにしていない様をよく目にした。
 そこで、一つ異端分子を放り込む。
 いわば実験のようなものだったと言ってもいい。しかし、見る限りその実験は成功しているらしい。

「昨日、おんしのクラスの生徒が保健室でイチャついてたぞ」
「発情期なんだ。見逃してやれ」

 その上、おまけまでついてきたらしい。
 プリントの束で俺の頭を叩いた月詠は、そのまま校庭へと視線を移した。

「クラス替え会議の時の意味がやっとわかった」
「なんだそれ」
「おんしが名字をZ組に入れた意味じゃ」

 教師らしいとこもあるんじゃのぅ、とわざとらしくニヤついた月詠に、「減給がかかっているんだ」と言って俺も校庭へと視線をやる。
 ちょうど男子サッカーの決勝が行われており、土方や近藤は勿論、高杉もコートでボールを追いかけ走っていた。

「名字一人で凄い効果だな」

 月詠の言葉に返事をしないまま、今度は視線をコート傍へと移す。そこには、志村や沖田をはじめとするZ組の生徒と、来島、河上、武市の姿があった。それだけでも珍しいが、その中にいつもと違い真剣な表情で試合を見つめる名字の姿も見つける。いや、見つめているのは試合というよりも、ってやつか。

「若いな」
「ま、お前ェよりは大分若いな」
「殺されたいのか?」

 重い肘を俺の脇腹に打ち込んだ月詠はさぞ苦々しい顔でもしてるんだろうと思ったが、むしろ穏やかな笑みを湛えて一連の様子を眺めていた。深く関わるわけではないのに、あいつらのことを何かと気にかけていたことは知っていた。だからこの現状を余計に嬉しく思うのだろう。「せんせー!」と言う声と保健室の戸が開く音に振りかえると、怪我をしたと思しき生徒とその付き添いの生徒がいた。すぐさま保健医らしく治療にあたる月詠を横目に、俺は新しい煙草に火をつけてもう一度校庭を見ると、どうやら男子サッカーはうちが勝ったらしい。手を取り合って喜び合う名字や志村、そして泣いた近藤にぐりぐりと頭を撫でられ不愉快そうな顔をする高杉。後で高杉を虐める材料にするためにその現場を写メをした。
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