※恋愛要素はありません。

 
 「ううう、銀時ごめん」
「ったく、珍しいじゃねぇの」

 苦しそうな顔で本日何度目かもわからない謝罪の言葉を口にした名前の背中をさする。
 名前は比較的酒に強い方で、今日のようなサークルの飲み会ではいつも介抱していることの方が多いため、このような彼女の姿は珍しい。三次会に移動だと騒ぐ面々をやり過ごし、心配する後輩たちに大丈夫だと伝え、名前を担いで店を後にする。幸いにも俺の家はここから近く、とりあえずこの使い物にならない酔っ払いを家に連れて帰ることにした。
 店を出て名前に背中におぶさるように言うと、素直に俺の首に腕を回した。

「ごめん銀時」
「今度なんか奢れよなチクショウ」
「うん。そだね」

 奢れ、だとかのワードにいつもであればもっと反応を示すはずなのに。第一普段こうして酒に溺れるのは俺の方で、名前に面倒をみて貰ったことなんて幾度もある。それを思えば、「いつも介抱してあげてるの忘れたの?」なんて返事が返って来てもおかしくないはずだ。

「なんかあったか?」
「……うん。あったー」

 だから飲んだ。と続けた名前は依然酒臭いままで、俺は色々と考える。

「当ててみんしゃい」
「どこの方言だそれ」
「当てたら豪華賞品プレゼントじゃけぇ」
「単位落としたか?」
「それは銀時じゃけぇ」
「……留年が決まった」
「それも銀時じゃけぇ」
「留年までは決まってねぇよ!」

 語気を強める俺に、デタラメの方言で話す名前の小さな笑い声が聞こえた。店で一度吐いたのを見たから大分楽になって来たのだろうか。

「じゃーなんだ、バイトクビになった」
「ティッシュ配り一日でクビになったけぇ」
「お前そんなに元気なら落とすぞ」

 短期のティッシュ配りのバイトを一日でクビになったのは俺だ。あれは初出勤前日に飲みに行こうと誘って来たこいつにも責任はあると思う。

「じゃ、誰かと喧嘩した」
「いい加減土方君と仲良くした方がいいけぇの」
「うるせーよ」

 じゃあ、なんだ。名前の身に何が起こったのか思いつく限りを言ってはみたが、全部ハズレとなると検討がつかない。

「ったくなんだよわかんねぇよ。振られでもしたのか?」
「……あたり」

 苦し紛れに言った言葉にまさかの返答。驚いて一瞬名前を支える腕から力が抜けそうになった。

「まじかよ。初耳だぞ」
「誰にも言ってないもん」
「あー……ドンマイ」
「なにそれ」

 いつの間にかあの辺な喋り方をやめた名前はまた少し笑った。

「初めて自分から告白したのになあ」
「おう」
「友達としてしか見れないって」
「まあ、女子っぽくないからな」
「それなー」

 それな、じゃねぇだろ。と言いかけてやめる。

「だからやけ酒ってことか」
「うん。でももう大分抜けて来た。お酒強いのも考えものだね」
「じゃあ降りろよ」
「やだ乗ってたい」
「なんでだよ。俺に惚れたか?」
「楽だから」
「ねえ殴っていい?」

 やってみろーとケタケタ笑う名前は、本当に酒が抜けて来たらしい。今までは酒の強い名前を羨ましく思うことも多々あったが、こういう時には弱い方が幸せなのかもしれないなと思った。

「ねえ、この先にコンビニあるよね」
「ああ」
「じゃあハーゲンダッツとラーメン買って」
「は? なに、食うの?」
「なんかお腹空いて来た」
「お前そういうとこだよ、多分」
「なにが?」
「飲んだ後にラーメン食いたいとか、思っても女子は言わねぇもんだろ」
「いいじゃん素直で」
「自分で言うな。つーか買って、ってなんだよ。お前が買えよ」
「だって私傷心中だよ? もっと優しくしてくれてもよくない?」
「いや、お前はつけあがるだけだね」

 ちょっと前までのグロッキー状態はどこへ行ったのか。いつものように話す様子に少し安心めいたものを感じている俺も相当甘い。

「ラムレーズンとクッキーアンドクリーム」
「二個も食うの?」
「抹茶にマカダミアナッツにパンプキン」
「んな食えるわけねぇだろ。腹壊すぞ」
「ふふ。あとチョコレートブラウニーと紫芋と」

 笑いながら背後で喋る名前に俺まで次第におかしくなって来て、コンビニにあるハーゲンダッツをミニカップからクリスピー、クレープに至るまで全種類買って帰ったのだった。
 帰ってから適当にそれを食べてまた少し飲み直す。終始楽しそうにしていた名前に甘いものの偉大さを感じホッとしたのを最後に、気づいたら二人して床で眠りこけていた。
 財布の中を見て深夜のテンションの恐ろしさを身を持って知ったのは、これから数時間後のこと。

:)140510
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