「いくっスよー」
「こい!」

 二人で向かい合いバレーボールを打ったり取ったり上げたりするこの練習は、対人と言うらしい。名前に「ちょっと付き合って」と言われた時は、とうとう晋助様に憧れる女子から決闘を申し込まれたのかと思ったがそんなことは全くなくて、球技祭でセッターを任されてしまったからバレーの練習に付き合って欲しいということだった。バレーボールには銀魂高校とマジックで書かれており学校からの借り物であることがわかる。

「また子ってなんで運動神経いいの」
「そうっスかね。名前も結構上手いと思うけど」
「全然。Z組の人たちもみんな基礎能力が高いっていうの? だから足引っ張りそう」

 名前からセッターを任されてしまったと聞いた時、それは極々妥当な人選だと思った。それはあの個性溢れるZ組の面々の中で、攻撃に特化した人間は数いれど調整役になれそうな人間はあまり見受けられないからだ。名前の能力は確かにあの激烈女達に比べたら並みだが、冷静だし器用な彼女がセッターというポジションには丁度良いということはわかる。本人は全くそのことに気づいていないようだが、そこは気づかせる必要はないと思う。

「もう一回、適当なとこにボール放って」
「はいはい」

 名前に出会ったのは一年の時だった。たまたまクラスが一緒で、たまたま席が近くて、たまたまクラスの私たち以外の女子が皆、友達作りに一生懸命だった。髪色の所為か、目付きの所為か。それとも中学時代の悪評の所為か。理由は知らないがそんな私にクラスメイトが寄ってくるはずもなく、席を立つこともなく気怠そうに携帯を弄る名前にもまた、最初は話しかける奴もいたが最終的には誰も近寄らなくなった。本人がそれを望んでいないのを、周りも気付き始めたのだろう。結果、四月半ばにして私と名前はクラスから完全に孤立していた。ただクラスで浮いたとて、私には晋助様や河上、武市先輩がいて、別段困ることはなかった。

「いでっ」
「アハハなにしてんのまた子」
「ちょっと考え事してただけっスよ」

 体育館で集会が行われていた最中、かったるくて出る気のおきなかった私はひと気のない校舎を適当に散歩していた。理由は煙草を吸えそうな場所を探すためであったが、四階まで来てふと鼻が利いた。匂いを辿っていくと、そこは屋上に続く階段裏。屋上には常時鍵が掛かっていて出ることができないことは知っていた。が、階段裏に誰かいるのだろうか。好奇心から歩を進めると、そこには扉があった。若干開いた扉のドアノブに手を掛けると、中には名前が窓を開けて気持ち良さそうに目を細めて煙草をふかしていた。
「あ、来島さんだ」
 ああ、ここからだ。
 私と名前がつるむようになったのは。そこからあれよあれよと言う間に、晋助様や河上、武市先輩とも仲良くなっていった。

「ね、どう? 打ちやすい?」
「フフ」
「え、なにおかしかった!?」
「いや、そういうわけじゃないっスよ。今位のがイイかな」
「わかった」

 名前は基本熱い人間ではない。その上晋助様と並ぶくらい何を考えているのかわからないところもあるが、ただ、スッと人の心に入り込む何かがある。いつも私がカッと頭に血が上った時でも、名前のそばにいるといつの間にか落ち着けている。多分これは他のやつらも感じているだろう。名前は、私たちが今まで出会った中でカテゴライズするには少しズレた人間な気がする。

「あ、晋ちゃんと河上君だ」

 おーい! とボールを小脇に抱えて二人に手を振る名前に気づいて歩み寄る晋助様は今日も凛々しく格好良い。

「ね、二人もバレーやろ」
「は?」
「なかなかいい提案でござる」

 「スマブラやるんじゃなかったのかよ」と渋る晋助様を無視して、意外とノリノリの河上は「武市も誘おう」と言って電話をかけ始めた。最早ゲームをする気はさらさらないらしい。誘い文句に近所の女児もいると言ったことは、聞かなかったことにしよう。
 
「じゃあ円陣バレーだね」

 とりあえず武市先輩がくるまで四人で四角を作るように配置についた。最初は渋って怠そうな顔をしていた晋助様も、なんだかんだボールが来れば打ったり取ったりをしていて、その表情も心なしか楽しそうに思える。
 ここ最近の名前は少し変だ。変というか、変わった。今までであればクラスの為に委員を引き受けたり、その上自主練習までするなんて考えられなかったことだが、それは別に嫌なわけではない。そんな彼女を微笑ましく思ってもいる。ただ、このひっかかる気持ちの正体ももうわかっている。

「あ、武市先輩」
「はっはぁ、疲れました。あれ? ちょっと河上さん女児はどこです?」
「さ、武市殿円陣バレーでござる」
「え、騙したんですか? いや、私も女児がいると聞いたから来たわけじゃあありませんよ。ただ、嘘の情報を流し友を謀るとは如何し難いこと……」
「おら、武市打つぞ」

 晋助様が武市先輩に向かって少し強めにスパイクを打った。そして構えも間に合わなかった武市先輩は、そのままなんとか片腕だけ当ててなんとかボールは宙に上がった。
 その光景を見て楽しそうに笑う名前を見て、私の感じた寂しさはまた小さくなっていく。

「よーし、打つっスよー!」
「おーこい」
「きたきたー!」
「たまにはこうして身体を動かすのもいいでござる」
「ちょっとまた子さん完全に私の方向いてません!?」

 普段口喧嘩で勝てない怨みを晴らすように武市先輩に打ち込んで、またも不恰好に上げた武市さんのボールを名前がふわっと上げて次に繋いだ。
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