「おい、おい名字」
「え、」
「一応会議中だ」

 段々と暑さの増す今日。寝不足からか、うとうとと船を漕ぐ名字に一度注意をすると、慌てて周りを見渡した。その様子に思わず口許が緩む。ここ毎日ある球技祭委員の会議に俺たちは参加していて、最初に比べ名字自身もかなり真剣になっているように見受けられた。

「ったく、寝んなよな」
「次は気を付けますー」

 地学部部室での一服以来、名字とは距離が近づいたと思う。ペンケースをくるくると回しながら、名字はちょっとおどけて謝った。

「それにしても、この間はどうやったんだ?」
「え、なにが」
「高杉だよ、高杉。あいつが球技祭の練習に来るなんざ今までなかったぞ」

 名字と高杉が二人して昼過ぎに登校したあの日。無理矢理にジャージを着せられた高杉は名字に男子の練習に放り込まれるようにして参加した。最初こそ驚いたものの、総悟や桂がちょっかいをだしてそのまま入りやすい空気を作ったからか、思いのほかすんなりと高杉は練習に溶け込んだ。

「気まぐれなのかな」
「はあ、やっぱそうか」
「でも、晋ちゃんが来てくれたら嬉しい」

 だから嬉しかった。と笑う名字の横顔に、少し苦いものを感じる。名字と高杉の関係はただ仲がいいという一言で片付けるには、少し度が過ぎている気がする。
 ただ、それがなんなんだ。俺は名字と高杉の関係をとやかく言うような間柄ではない。

「もうこんな時間かー」
「もう練習始めてる頃だな」

 俺たちが委員の仕事でいない時は、男子キャプテンの近藤さん、女子キャプテンの志村に練習に関することは任せてある。そのためなんの心配もないが、名字は少し落ち着かない様子だ。

「どうかしたか?」
「いや、そんなたいそれたことじゃあないんだけど、でも私にとってはなぁ……」
「なんなんだよ」

 教室に戻りジャージに着替えながら落ち着かない様子の訳を名字に尋ねる。念のために言っておくが、名字はスカートの下から着替え、シャツの下にはTシャツを着ている。

「私、セッターなっちゃった」
「……お前、経験者だったのか」
「ううん。ウチにちゃんとしたバレーの経験者はいなかったじゃん」
「ああ、そうか」

 一応各種目毎に割り振る際、部活等で競技の経験があるか否かは全員に聞いていた。それに名字は何か運動部に入っていたことはないと言っていた。

「練習してて、皆がそうした方がいいって」
「じゃあ、いいじゃねーか」
「うん……。でも、私ガラじゃないし」

 普段飄々としている分、名字が感情を表に出すことに少し驚く。が、しかし名字の悩みのタネがあまりにも大したことではないため、つい噴き出してしまう。

「あっ、笑ったな」
「わ、悪りぃ」
「本当だよ」
「でもよ、多分あいつらは誰もガラにないなんて思ってねぇと思うぞ」

 押し黙ってから、名字は俺から顔を逸らしテキパキと身支度を整えた。

「早く行こ、土方君」
「珍しくやる気だな」
「うるさい。だって、足引っ張れない」
「へぇ」

 それまで適当に流していた髪の毛を、最近一つに括り始めたことに気づいていないふりをしながら、俺は名字髪が一束になって揺れるのを後ろから眺めていた。
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