「怪我人とかだしたら即刻反則負けにしますからね」

 昼休みの散々たるZ組の練習は、同じく校庭で練習をしていた他クラスから苦情という苦情を寄せ集めていたらしい。そして急遽呼び出された私と土方君は、球技祭の実行委員から球技祭と各球技のルールを一から懇切丁寧に説明された。

「今後校庭はやめた方がいいかもしれねーな」
「あとローリングサンダーも」
「あいつらのいがみ合いさえなけりゃな……」

 そういいつつも止めようという気を見せない土方君にZ組への慣れを感じる。

「校庭じゃない場所って、どこかアテでもあるの?」
「まーそれなりに」
「へー」

 土方君の口から幾つかの公園の名が発せられ、私はぼんやりとそれを聞き流していた。悪意があるわけではないが、公園の名前を言われてもなかなかピンとこないのだから仕方が無い。

「と、いうわけで今日の放課後は四号公園の広場で練習することになった」

 これるやつはそこ集合だから、と土方君からの伝達があり、帰りのホームルームは終わった。わらわらと教室を出て行くクラスメイトを見ながら、私も面倒だとは思いつつも重い腰を上げ帰り支度を急ぐ。

「名字さんも来るのよね?」

 軽い鞄を肩に担ぎ、いざ教室を出ようとしたその瞬間。後ろから綺麗な声に呼び止められ慌てて振り返る。

「う、うん」
「ならみんなで一緒に行きましょう」

 にっこりと綺麗に口角をあげた志村さんに一瞬見惚れてしまう。そんなことは知らない志村さんは、そのまま「ね?」と念を押すように私の右手を掴んで歩き出した。
 
「名字さんは去年C組といっていたが、東城という男を知っているか?」

 志村さんと柳生さんと猿飛さんの三人と校門を出たあたりで、柳生さんから話しかけられた。東城、というのはなんとなく覚えている。クラス替え当初、よく話しかけてきたようなくれていないような、曖昧な記憶を思い出す。

「髪の長い人、だよね?」
「ああ。髪が長くていつも嫌らしく笑っている男だ」

 少し嫌そうな顔をしてそう言った柳生さん。

「知り合いなの?」
「腐れ縁だ」
「世話役というか、幼馴染というのかしらね」

 志村さんが補足するようにそう言った。

「ちょっと前から気になっていたんだけど、名字さん」
「は、はい」
「あなた、先生とは一体どういう仲なの?」

 ズイ、と顔を近づけてそう言った猿飛さんはねっとりとした視線で私を睨めつけた。

「先生……って服部先生?」
「あのイボ痔教師なわけないでしょ、銀八先生よ」

 イボ痔教師なんて言われていたのか服部先生は。ともかく銀八先生、と言った猿飛さんの口調はどこか色っぽいというか愛おしげで、猿飛さんが坂田先生に好意を抱いているというのがなんとなく掴めた。

「急に転級してきたと思ったらなんだか先生と意味ありげな視線交わし合ったりして、まさか、あなた銀八先生の……」
「ま、まさか私たちつきあってなんて……」
「性奴隷?」

 頭の中にお笑い芸人たちがひな壇から一斉にコケるあの映像が浮かんだ。真面目な顔をした猿飛さんがそんなことを言うものだから、一瞬面食らってしまう。ワンテンポ遅れて否定をしようとした時「いい加減になさい雌豚」と、志村さんが猿飛さんの顔面を裏拳で殴った。

「ごめんなさいね、この人ドMな上にとんだ雌豚で」
「ちょっと痛いじゃないのお妙!」

 猿飛さんの赤縁眼鏡にヒビがはいっているが、志村さんはそれに気にも止めずに猿飛さんをあしらっていた。
 猿飛さんと志村さんの言い合いをBGMに、柳生さんから志村さんの良さを聞かされて、気がつけば公園に着いていた。そして既に公園からは喧騒が聞こえてくる。

「あら、もう皆来ているのかしらね」

 上品に笑った志村さんに続いて公園の敷地に足を踏み入れる。すると、眼前に広がるのは神楽ちゃんと沖田君の激しい攻防戦であった。二人とも小脇にバレーボールを抱えているが、それは全く使っていないようだ。

「おう、もう始めてんぞ」
「土方君」

 先に到着していたらしい土方君たちは、サッカーのメンバーらしくサッカーボールでパス練習をしていた。神楽ちゃん達の方を指差すと、土方君は呆れた顔をしてからほっとけ、と手で合図した。

「意外、って言ったら申し訳ないけれど、名字さんバレー上手ね」

 殺人的なスパイクをバコバコ打つ志村さんに、それを奇声というか嬌声をあげながら綺麗にレシーブする猿飛さん。素早いフットワークでどんなボールにも対応する柳生さん。他エトセトラ。エース級の人材ばかりのこのクラスで志村さんはそんなことを言ってくれたけれど、私なんて足を引っ張らないという程度のレベルでしかない。

「器用というのか、名字さんのトスは打ちやすい」

 柳生さんまで。前にバレー全日本のテレビ放送を見てハマった私とまたこが、晋ちゃんたちを無理矢理誘って一時期バレーで遊んでいたという程度なのに。嫌々のわりに運動神経のいい晋ちゃんと河上君に、お遊びという名のしごきをされたのが役にたっているのだろうか。

「いいこと思いついた! 名字さん、セッターお願いできないかしら?」
「セッター!?」

 志村さんのキラキラとした目。それはいいと言わんばかりに頷いて見せる柳生さんや猿飛さん含む女子クラスメイト達。
 セッターって、チームの要だ。司令塔で、セッターのトス一つでアタッカーを生かしも殺しもする……って全日本の放送で解説者が言ってた。私だって、そう思う。常に周りに目を配って、一番サボれないポジション。私とは真逆なポジション。
 勿論全日本のような高度な期待をされていないのは明白であるが、Z組のこの個性豊かでレベルの高い面々のセッターというのは、なんとも責任重大と言った感じがして気が引けてしまう。

「共に優勝目指して頑張りましょう!」

 志村さんにがっしりと両手を掴まれた私が、断れるはずもなかった。
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