前回会ったのは多分三ヶ月くらい前だった。あの時もこんな風に急にふらりとやってきて、付き合っていた時みたいに無遠慮に部屋に上がり込んだ。お腹が空いたとか、クーラーなくて暑いとか。口実のようで実は本心のような理由をつけて。

「もー銀さんお腹空いて死にそう」
「神楽ちゃん達は大丈夫なの?」
「大丈夫もなにも、あいつらに俺は追い出されたわけだからね」

 生活費をギャンブルに費やしてしまう銀ちゃんを懲らしめるための数日間というわけらしい。銀ちゃんの「暫くは万事屋帰れねーな」の一言に少し期待をしてしまう。期待って、なんだ。

「ちょっと。居座るつもりじゃないでしょーね」
「んなつめてーこと言うなよー。何度もセックスした仲でしょーが」
「もう私たち付き合ってないんだから」

 銀ちゃんの無遠慮な言葉と自分の言葉が胸にチクリと刺し傷をつくる。三ヶ月前はふらりときて二日居座って帰っていった。そして、セックスをした。付き合っている時と同じような流れで寄り添って、キスをして、触れ合って、重なった。あの二日の間は、まるで恋人同士だった時のようで。なんとなく私は、あの中途半端な毎日が最低でも一週間は続くものと思っていた。しかし、三日目の朝。私の隣にいたはずの裸の銀ちゃんはいなくなっていた。セックスの所為か付けっ放しのクーラーの所為か、痛いくらいに乾いたかすれた声であの時私は「そっか」と呟いたのだった。
 あのときの裏切られたような期待外れなような、それでも少しホッとしたようなどっちつかずの感情を思い出す。また同じような思いをしたくはない。銀ちゃんを受け入れたら同じようなことになるに決まっている。それなのに。

「晩飯なにー?」
「適当」
「ふーん」

 どうして拒むことができないのだろう。

「神楽ちゃんたちに心配かけないようにね」
「おめーあいつらより銀さんの心配しろよなー」

 銀ちゃんはソファに座る私の隣にどかりと腰を下ろし、両手でふざけるように私の頭をぐしゃぐしゃと掻き乱した。やだやめて、と本心とはとても思えない甘い声音に自分でも驚く。

「私に逆らったらうちからも追い出すからね」
「名前ちゃんは優しいからそんなことしないって銀さん知ってますー」

 この語尾をのばす言い方にも懐かしささえ感じてしまう。今すぐ抱きついて大きな手で撫でて欲しくてたまらなくなる。昔はよく、冷え性な私の指先をあったかい銀ちゃんの手で包んで暖めてくれた。そんかあったかい毎日が恋しいだけなのに。

「なに、嫌なことでもあった?」

 きっと顔に出ていたんだろう。別に、とだけ言って銀ちゃんの肩に頭を預ける。これ以上顔を見られたらきっともうきっと遊びにも、会いにも来てくれなくなる。銀ちゃんは、そういう人だ。

「よーしよし。銀さんが慰めてあげますからねー」

 だから私は、もう特別な感情なんて持っていない振りをする。適当な時に会ってなんとなく触れ合うだけの、都合の良い関係をお互いが心地よく思っている振りをする。
 暖かい指先が頬を撫で顎を持ち上げて、唇が重なった瞬間。キュッともう片方の手で冷たい私の指先を掴んだ銀ちゃんの暖かさに、不覚にも泣きそうになった。

:)131029
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