吹く風が冷たくなる一方の今日この頃。昨日神楽ちゃんがくしゃみをしているのを見て、そろそろ出すしかないかと決意が固まった。天気もいい、今日しかない。

「名前、何してるアルか?」

 朝食を食べてまたソファーで寝ていた神楽ちゃんが半身を起して私の方をみて言った。私はというと、銀ちゃんの部屋の箪笥から分厚い衣類を引っ張り出していたところだ。

「あ、おはよう神楽ちゃん」
「おはようアル。一人でシコシコ何してるネ。ハッ! さては銀ちゃんに愛想尽かして出ていくアルか!?」

 ソファーから飛び出して私に駆け寄る神楽ちゃんに、思わず笑みが零れる。勿論愛想を尽かしたわけもなく、私の腰元に抱き付く神楽ちゃんの頭を一撫でして、諭すような口調で訳を説明する。

「袢纏と炬燵アルか?」
「そう。最近寒くなってきたからそろそろ二つとも出そうかなって思って。あと、シコシコっていうのはさっきみたいな時に使う言葉じゃないからね」

 箪笥の中から引っ張り出した二人分の袢纏と炬燵布団の匂いを嗅ぐと、やはり防虫剤の匂いが強くついていた。それらをもってベランダにでると、肌寒いけれど気持ち良い日差しがあって暖かくもあった。大きな銀ちゃんの袢纏と、兎模様の神楽ちゃんの袢纏を物干し竿に並べる。端に炬燵布団も広げると、物干し竿は一杯になった。

「洗ってないのにどうして干すアルか?」
「防虫剤の匂い消しと、あと陽に当たるとふわふわして気持ちいいでしょ?」
「ふーん、あ、銀ちゃんアル」

 神楽ちゃんの目線を辿ると銀ちゃんがいて、でも銀ちゃんはうちから離れてどこかへ行く様子だった。

「まだどっかほっつき歩くつもりアルか」
「ま、まだお昼だし」

 パチンコか、それとも甘味処か。銀ちゃんが行きそうな場所なんて大体は想像の範疇にある。夜ご飯までに帰ってくれば、とくに心配もない。

「またパチンコアルか」
「ふふ、そうかもね」

 同じことを考えていた神楽ちゃんに、思わず笑ってしまう。そんな私をみて神楽ちゃんは怪訝そうな顔をした。

「私は名前が好きアル」
「え? ありがとう。私も神楽ちゃんのこと大好きよ」
「名前は綺麗だし、しっかりしてるし、ご飯も美味しいし、綺麗好きだし、なにより優しいネ」
「ど、どうしたの神楽ちゃん」

 慣れない言葉ばかりを並べられ、どうしていいかわからず狼狽える私に、神楽ちゃんは尚も続けた。

「新八もババアも言ってたヨ。名前は銀ちゃんには勿体ないって。私もそう思うネ。名前が押し掛け女房なんて勿体ないアル」
「お、押し掛け女房って、神楽ちゃん意味わかってる?」
「名前はあのダメ男のどこが好きアルか?」
「そんな、急に、言われてもなあ……」

 どこが好きかなんて、急に聞かれても明確に答えることなんてできない。銀ちゃんなんて普段ぐーたらしていて、だらしないしエッチだし、未だにジャンプ読んでるし、足臭いし……思い返してみればこんなことばかり浮かぶんだけど、でも……。

「好き、なんだよねえ」
「答えになってないアル」

 詰め寄る神楽ちゃんをまあまあと諌めていると、ガラガラと玄関の戸が開く音がして、「銀さんのお帰りだぞー」と声がした。

「はいはい、おかえりなさい」

 慣れた動作で脱ぎ捨てられたブーツを、これまた慣れた動作で揃える。

「ん」

 しゃがみこんだ私に、銀ちゃんがひとつの紙袋を差し出してきた。

「なに?」
「いーから」

 目を合わせようとしない銀ちゃんから紙袋を受け取る。大きさの割に軽くて柔らかい。さっさと立ち去ろうとする銀ちゃんの背中に、開けていいかと問いかけると「おう」と短く肯定の返事を返された。
 開かないようにと止めてあるテープを綺麗に剥がすと、そこには赤い布地。ゆっくりと袋から取り出すと、それは神楽ちゃんのよりは大きくて、銀ちゃんのよりは小さな袢纏だった。

「銀ちゃん」
「おー、馬子にも衣装ってやつだなー」
「ありがとう」
「……おー」

 テレビを見ながら私に視線を向けずにそういった銀ちゃん。ふわふわの暖かい袢纏を着て、神楽ちゃんに目くばせをすると、神楽ちゃんは呆れたような顔をして笑っていた。
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