帰りのHRで「明日の昼休み球技祭委員は集まりあるからなー」とわざとらしく皆にいった先生は、私の方を見てニヤリと不敵に笑った。隣の土方くんが面倒だと呟いて、私もそれに頷く。

「じゃ、もう特にないから解散」
「起立、礼」

 新八君の号令が言い終わらないうちに、この時を待ちわびていたかのようにクラスの半数が教室を飛び出していった。一迅の風が吹きこむほどの勢いに唖然としてしまう。

「す、ごいね」
「あ? こんなんいつものことだぞ」

 何も気にしていないと言うような土方君を見ていて、暫くしたら私もこの光景に慣れてしまうものなのかと思うと、少し恐ろしいとまで思ってしまう。

「あ、そういやこれ」
「ん?」

 土方君が差し出してきたのは藁半紙のプリントで、そこには「今年度の球技祭について」と題されてあった。つまりは球技祭関連の連絡と言うことだ。

「これから毎週水曜の昼に集まりがあるらしい」
「え!」
「まあ、そんなもんだろ。あと一ヶ月ちょっとな訳だし」
「そっか、そういうもんなのか」

 委員どころか行事にすら積極的に関わったことのなかった私には驚愕の事実だった。他の行事もこれほど尽力しているものなのだろうか。

「ちなみに、多分直前の一週間はほぼ毎日あると思うぞ」
「え! ま、毎日?」
「おう。まあ、文化祭と比べりゃ楽な方だ」
「そう、なんだ……」
「夏休み前からずっとあるからな。勿論夏休み中も、そのあとも」

 恐るべし行事。恐るべし、文化祭。心底文化祭委員でなくてよかった。そう思うと、土方君の言うとおり自分はまだマシな方なのかもと思えて来る。にしても、晋ちゃんよりは学校に来ているとはいえ、怠惰な学校生活を送って来た私にそんな面倒なものが務まるのだろうか。

「土方君はこういうのやったことあるの?」
「ねーな」
「球技祭は?」
「あ?」
「球技祭は、参加してた?」
「あーまあ、一応、な。あいつら勝たなきゃうるせーし」

 そう言ってもう私たち以外いなくなった教室を見渡す土方君は、少し目を細めて小さく笑った。何か、大切なことを思い出すように。

「明日の昼休み、ね」
「おう、バックレんなよ」
「わ、わかってます」

 後方の扉があいて、また子がまだっすかー? と顔を出した。後ろには河上君と武市さんがいる。私は急いで鞄に荷物を詰めた。

「ごめんごめん! じゃあ、土方君また明日」
「おう、また明日」

 小さく手を振ると、土方君は手を顔より少し上に上げた。また子達の方を見ると、河上君が丁度ヘッドフォンを外したところだった。

「聞いたでござるよ名前。球技祭委員になったそうで」
「馬鹿にする気満々だね河上君」
「素晴らしいじゃないですか、学校奉仕。ねえ名前さん。ところで私この間Z組にお団子頭のビン底眼鏡をかけた少女を見かけたのですが」
「ああ神楽ちゃんのことですか。確かにロリコ……いや武市さん好みの子ですもんね」
「ロリコンじゃありませんフェミニストです。何度も言っているじゃないですか」
「武市先輩本当良い加減にしてくださいっす。ロリコンだかポリゴンだか知らないっすけどマジでキモイっす」
「いやだからちげーって言ってんじゃんフェミニストだって」

 いつも通りの会話に、いつも通りの流れ。晋ちゃんがいないのはきっと昼休みで帰ってしまったからなのだろう。多分この後はどこかお店に入るか、誰かの家で暇を潰すのだろう。
 ただ、私たち以外の。晋ちゃんでもまた子でも河上君でも武市さんでもない人。土方君との「また明日」は何故だか新鮮な心持ちがした。
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