「おはよー、トシちゃん」
「人を一昔前のアイドルみたいに呼ぶんじゃねー」
「あ、そこのリモコン取ってー」
「自分でとれよ」

 そういいつつもリモコンを手渡してくれるトシに、ありがとーとお礼を言う。まだ寒い二月の朝。

「今日休みでしょー?」
「おー」
「どっかいく?」
「炬燵に首まで入ってる癖によく言うよ」

 クッションを枕代わりに頭に当てて炬燵ライフを充実させている私にトシは嫌味ったらしい目でそう言った。キッチンに立つ後姿から、コーヒーを入れているのだろうという推測が立てられる。

「私にもー」
「わーってるよ」

 二つ並べられたカップを見てわかってはいたけれど、トシの返事が聞きたかったのだ。トシの足元につい先日私があげたモコモコのルームソックスを見つけてつい口元がにやけてしまう。本当に、似合っていなくて可愛い。
 暫くしてコーヒーの良いにおいと共にトシが炬燵テーブルの上に二つのカップを置いた。

「……なんで隣?」
「うるせー」

 炬燵テーブルは四足のため、四つの炬燵への入り口がある。そのうちの一つを私が占拠しているのだから、当然残りの三つのうちから選ぶだろうと思ってたのに、そんな予想に反してトシが選んだのは私が絶賛占拠中の入り口だった。嬉しさを堪えて、わざとトシに意地悪を言うと、トシはそっぽを向いてしまった。

「照れちゃって」
「うるせー」
「狭いなートシのせいで」
「うるせー」
「さっきからそれしか言ってないよ」
「……うるせー」

 トシを苛めるのも楽しいけれど、せっかく入れてくれたコーヒーを熱いうちに飲もうと上半身を起こす。その時ちょっと身体を反対に寄せてくれるトシのちょっとした気遣いが愛おしい。

「うん、トシが淹れると美味しいなー」
「ただのインスタントだけどな」
「照れたでしょ?」
「照れてねーよ」

 どんな顔をしてるのかと覗き込もうとすると、トシの大きな手によって顔を押し返された。

「ちょっとー! 不細工になっちゃうよー!」
「元々だろーが」
「そんな不細工を好きなのはどこのどなたですかー?」

 挑発的な目でトシの顔を覗き込めば、トシもトシで好戦的な目をしていた。そしてそのまま私の両脇に手を入れてわさわさと擽り始めたのだ。あまりの擽ったさに身を捩るようにしてその攻撃から逃れようとするも、ちょっと本気になったトシからは中々逃げ切れない。やっとの思いでトシに背を向ける形で何とか耐えようとすると、急にトシは手の動きをやめて、両脇から手を抜きそのまま私を後ろから抱きしめた。乱れた息も一瞬止まってしまう。

「ト、シ……?」
「なんでだろうな」
「え?」
「でも、こうしてると、落ち着くんだよな」

 そう言ってトシは腕の力を強めた。私はというと、急な態度の変貌ぶりに顔に集まる熱が煩わしくて今が後ろ向きで本当に良かったと思う。嬉しい思いと気恥ずかしさが同時に込み上げてきて、自分でもよくわからなくなっていた。
気が付けば私を抱きしめていたトシの手が胸に移動して、包み込むようにして揉んでいる。

「ちょ、ばか何してんの?」
「いや、今日は一日ゆっくりしてーなと思って」
「……意味わかんない」

 変わらない速度と強さで揉み続けるトシに、されっぱなしはムカつくからと振り返ってキスをした。テーブルの上のコーヒーが小さく揺れて、冷めていく。

:)130207
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