「名前どうしたアルか! 風邪でもひいたアルか!」
「お、はよう。神楽ちゃん」

 あの始業式の日から二日ぶりに私はZ組の教室に足を踏み入れると、凄い剣幕で神楽ちゃんが詰め寄ってきた。結局あの日は晋ちゃんとダラダラ過ごして次の日の学校をサボった。今までもそんなことたくさんあったし、一週間と学校を休んだ時とて、今までのクラスメイトは特に何も言ってこなかった。

「だ、大丈夫だよ」
「本当アルか! 名前ひ弱そうだから心配してたネ」

 大きな瞳を目いっぱい開いて私を見つめる神楽ちゃんにありがとう、とだけ言って笑うと、神楽ちゃんも良かったアル、と言って笑った。しかしひ弱とは。私よりも背が小さくて色白で少女のように細い神楽ちゃんの方こそ、そう言えるのではないだろうか。
 他にも席に着くまでに通りかかる人皆が私におはようと挨拶をしてくる。なんだか、調子が狂ってしまいそう。

「おう」
「おはよう、土方君」

 ピンと皺ひとつないワイシャツに、みるからにサラサラな真っ黒な髪。茶色がかった晋ちゃんのとは違って、本当に土方君の髪は真っ黒だ。

「なんだ?」
「ううん、何でもない」

 じっと土方君の方を見ていたことに、どうやら本人が気づいてしまったらしい。特に理由も見つからず、晋ちゃんとの髪の色の差について考えていたなんて馬鹿なことも言えなかった私は、そのまま適当に流すことにした。

「そういや、お前昨日係決めだったぞ」
「あ、そうか。私何になってたかわかる?」
「球技祭委員」
「……え?」
「だから、球技祭委員」

 球技祭委員。状況を上手く飲み込めない私の状態を察してか、土方君はことの経緯を説明してくれた。土方君の話によれば、誰もやりたがらないこの面倒な祭系委員の一つ、球技祭委員を決める際、勝手に先生が黒板に私の名前を書いたらしい。他の人も特に何も反論もないまま会は恙なく流れ、私が球技祭委員となったというわけだ。

「坂田先生本当何考えてんの……」
「まあ、頑張れよ」
「他人事だと思って」
「俺も球技祭委員だしな」
「……は?」

 土方君も先生に勝手に名前を書かれたのだろうか。

「俺はジャンケンに負けた」
「へえ……」
「なんだその馬鹿にしたような目は」

 鋭い目で睨まれて、咄嗟に晋ちゃんを思い出す。土方君を見ていると、どういうわけか晋ちゃんとかぶる時がある。土方君の方が百倍くらい爽やかなのに。でも、

「まあ、やる気ないもの同士頑張ろうぜ」

 だからこんなに話しやすいのかもしれない。
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