※性的描写がありますので、十八歳未満の方はご遠慮下さい。



 高校時代は青春の最たるもので、今まで読んできた小説も漫画でも、紙の上で登場人物たちは皆恋愛に友情に一生懸命だった。安直な言葉を使えば、キラキラと輝いていた。高校に入るまでは私だって大なり小なり、自分なりの青春を謳歌できるものと考えていたけれど、現実はそこまで甘いものではない。いや、私だって人並みにクラスメイトと体育祭や文化祭を楽しんできた。そのはずなのに、そんな思い出が全て茶番に思えてしまうようなことを犯してしまったのだ。この現状を一年前の私は想像できただろうか。

「先生」
「ん、なによ」
「なによって、んっ」

 この国語科準備室に足を運ぶのは一体何度目だろう。そして、ここに来る目的が変わってしまったのは、一体何度目からだったろう。

「ばれないの? いつもこんなことしてて」
「んーまあ、カーテン閉めてるし、鍵しめてるし、大丈夫なんじゃねーの?」
「そっなん、だ」

 二人分の体重を支えている椅子がギイギイと小さく悲鳴を上げた。先生の上に後ろから抱きとめられる形で座る私の胸を、先生は遠慮もなく制服の上から撫でまわす。そして時折耳元でわざとらしく息を吹きかけた。この、始める瞬間が私は好き。

「俺さ、このスカーフを外す瞬間が好きなんだよね」

 するりと布の擦れる音を残して制服のスカーフが抜き取られる。真っ赤なスカーフがついさっきまでを忘れたように形を崩して床に広がる様を見て、私の心臓から流れでた血液のようだと思った。満たされるようで、結局言い知れようのない痛みが私を襲う。

「変態」
「じゃあその変態を受け入れる名前は、もっと変態だな」

 白のセーラー服の下を這う熱っぽい先生の手は、知り尽くしたように私が好きなところばかりを責めたてる。ちょっと強めな力加減に、先生も切羽詰っていたらと嬉しくなる。耳を舐めたり甘噛みしたり、まるで長い長いキスをする時のように舌を這わせられ、その感覚に身を捩じらすと先生と目が合う。そして今度はそれが私の唇へと落とされる。段々を荒っぽくなる自分の吐息に飲み込まれるように、私の意識も快楽に落ちていくのがわかる。先生の片方の手がスカートの下に入って内腿を撫でまわす間も、それが下着の上をなぞり、中に入ってくる間もずっと先生と私の唇は触れては離れてを繰り返す。私の声も、先生に飲み込まれた。

「そろそろ、い?」

 聞く癖に、私の返事を待つことはない。拒否なんてしないことを先生はきっとわかっているのだろう。先生に促されるまま、いつものように先生と向き合う形で座りなおした。いつの間にか外されたベルトに、あけられたズボンのチャック。そしていつの間にか装着されている避妊具。それに気づくのと同じくらいに、先生の左手が私の背中に回された。もう一度深いキスをする。その間に少し腰を浮かせると、そのまま先生のものがあてがわれ、ゆっくりと腰を下ろす。この瞬間、痛みはないけれど、圧迫感にいつも息を止めてしまう。
 徐々に熱っぽくなる先生の吐息が愛おしくて、少し下腹部に力を入れる。こうするといつも先生は切なそうな顔をして私のことを見て、こう言うんだ。

「生意気」

 そこからはイニシアチブを先生に持っていかれて、下から容赦なく突き上げられる。先生の背中に両手を回して声を出さないように口を閉じた。

「何無理してんの」

 自分で声を我慢するように教えたくせに、意地悪そうに笑ってそういった先生。そのまま私の下唇を舐めてもう一度長いキスが始まる。何もかも知り尽くした先生は、何度か私の良いところを突いていかせてから自分本位で動く。勝手に小さく震える奥に、電気が走ったような快感。それらが頭を支配して、正常な働きをしてくれない。もはや先生に抱き付くだけとなった私の奥を何度か強く突いて、先生の律動は終わった。暫く抱き留められて、先生の息が整ったころずるりと引き抜かれる。名残惜しいとでもいうように小さく痙攣する自分の下腹部が少し恥ずかしい。
 朝、紙パックのジュースを買ったときについてきた小さなコンビニ袋を先生に渡すと、偉い偉いとでもいうように私の頭を撫でから、その中に外した避妊具を捨てた。溜まった精液を見て、ちょっと安心する。コンビニ袋を密閉するように一重結びにして机の上に置いておく。
 慣れた手つきで服を整える先生に倣って、私も乱れた制服を順番に直していく。この時間が、とても嫌。

「ほら」
「あ、りがとう」

 私よりも早く支度を終えた先生が床に広がったスカーフを渡してくれた。まだ時間のかかる私を見かねてか、先生は後ろからスカーフを通してくれた。今日は、ちょっと優しい。

「やっぱ上手くできねーな」
「ううん、これでいい」

 でもちょっと優しいからって調子に乗ったらいけない。私はいつもと同じように終わったら手早くこの部屋を出なきゃならない。そう言いつけられたわけではないけれど、行為後の先生は冷たいから、自分が傷つきたくないがための防衛本能が働く。
じゃあ、といつものように部屋を後にして、階段を足早に降りてゆく。ガラスに移ったとても綺麗とはいえないスカーフに、自然と口角が上がった。男の人は好きでもない人のことを抱ける。それは身をもって経験しているけれど、ずっと抱き続けていたら愛着も湧いてくるものなのだろうか。もしそうなら、ちょっと嬉しい。襟元にほんのりとうつった先生の煙草の匂いを逃がさないようマフラーで蓋をして、すっかり陽の落ちかけた家路を歩く。足元を見ながら青春の意味を考えていたら、前に読んだアナートル・フランスの言葉を思い出し、妙にしっくりときて泣きたくなった。

:)130203
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