家に帰ってみると電気がついていて、私が出るときは確かに消したことを思うと誰かが家にいることなんて明白だった。そして、誰がいるのかも容易に想像できる。

「ただいまー」
「おー」
「おーって勝手に人んち上がって何してんの晋ちゃん」
「おー」

 テレビの前にごろりと寝転がる晋ちゃんは、私が一昨日買ったポテチを貪っていた。ムカつくちゃあムカつくのだけど、私の好きな幻の梅味じゃない方をあけたところはちょっと評価しよう。

「腹減った」
「ポテチ食べてんじゃん」
「腹減った」
「はいはい」

 鞄を所定の位置に置いて、手早く制服から部屋着へと着替える。後ろで着替えていることに気付いてか気付かずか、のっそりと起き上がった晋ちゃんは、そのまま私の隣を通り過ぎて台所に立った。

「あれ、何してんの?」
「ん」
「晋ちゃん作ってくれんの?」
「ん」
「まじか、ちょっと楽しみ」

 今日は無口な日なのかな、なんて思いながら冷蔵庫の中のものを思い出す。ロクなもの入ってなかったと思うけど、どうするのかな。ちなみに私は、面倒だからレトルトカレーにするつもりだった。

「あ、今日始業式だったよ。晋ちゃん何組だったと思う?」
「どーせZ組だろーが」
「正解。じゃあ私は何組だったでしょーか」
「あ? ……C」
「はずれー、正解聞きたい?」
「……」
「正解は、Z組でした」
「……は?」

 フライパンをかき混ぜていた菜箸を落とすほどに動揺してこちらを振り返った晋ちゃんは、いつにも増して驚いた顔をしている。まあこんな反応もおかしくないほどに、Z組への移動は稀有なことなのだ。

「吃驚した? 私も吃驚した」
「吃驚っつーか……お前、なんかやらかしたのか」
「その反応また子と同じ」

 落とした菜箸をシンクに突っ込んで新しい菜箸でフライパンをかき混ぜ始めた晋ちゃんに、何もしてないよ、と告げる。第一私だってどういうわけでこうなったのかよくわかっていない。

「服部先生は、坂田先生の推薦って言ってた」
「あの野郎何企んでんだか」

 フライパンから皿に中身を空けて、晋助はやかんで沸かしておいたのであろうお湯を一つのお椀に注ぐ。ふわりと香る味噌の匂いからして、インスタントの味噌汁だろう。そのまま、まるで自分の家かのような手際で御飯茶碗を二つ取り出しご飯を盛り付けた晋ちゃんは、私に運べ、と顎で指図をした。それくらいならやりますよーと御飯茶碗と箸を二つもってテーブルに並べる。私に次いで晋ちゃんが野菜炒め的なものと一杯の味噌汁を持ってきた。

「味噌汁一個しかなかった」
「まじか。買っておかないとな。てかこれ何? 野菜炒め?」
「回鍋肉」
「へー美味しそう。いただきます」

 一つの味噌汁を二人で啜りながら、晋ちゃんお手製の回鍋肉を口に運ぶ。結構美味しい。

「美味しい」
「あたりめーだろ、俺が作ってんだぞ」
「クックドゥと晋ちゃん、ね」
「うるせぇ」

 キャベツも豚肉も冷蔵庫になかったはずだから、きっと晋ちゃんが買ってきてくれたのだろう。なんだかんだこういうことするから憎めない。というか、有難い。テレビはまだ夕方のニュースを映していて、まだ夕飯にはちょっと早い時間だ。

「あ、そういえばね。土方君の隣になったよ」
「土方の?」
「うん。土方君いい人だったから結構話した」
「へー」
「晋ちゃんって、沖田君と仲良いんだって?」
「あ? 誰が言ってたよんなこと」
「土方君。よく二人で喋ってるの見るって」
「あれはあいつが勝手に……」
「晋ちゃんが意外にクラスに馴染めてるみたいで驚いた」

 冷蔵庫から最後の二缶のビールを取り出して片方を晋ちゃんに渡す。プシュ、という小気味良い音と、喉を通るすっきりとした強炭酸の刺激が心地よい。

「あ、お前……あいつの前で晋ちゃんとか言ったんじゃねーだろうな」
「……ごめ、土方君笑ってた」
「っ最悪だ……」
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