二限終わりにはあのお団子頭の神楽ちゃんを筆頭にZ組のクラスメイトが私の席に押し寄せてきた。驚いたことに、あのHRと一限を費やした質問では足りなかったらしい。神楽ちゃんは人懐っこい笑顔で握りしめた酢昆布を分けてくれて、ちょっと気が引けたけれどあまりにも目を爛々と輝かせてこちらを見るものだからそれを口に運ばざるを得なくなった。久々に食べた酢昆布は想像以上に酸っぱくて、沖田君がまずかったらここに吐き出して下せェ、と気づかいと言うべきか、うさぎのポーチを眼前に広げてくれた。そしてそのポーチの持ち主はあろうことか神楽ちゃんだったようでまた二人の言い争いが始まる。

「ごめんなさいね、なんだか騒がしくて」

 穏やかな笑みを浮かべて私の前に現れたのは志村妙さん。名字で呼ぼうとしたら名前で呼んでね、と菩薩のような笑顔で言われてしまい、さっきまでのバイオレンスな彼女のことなどすっかり忘れて私はお妙ちゃんと呼んだのだった。しかしそのすぐ後にゴリラ、もとい近藤君がお妙ちゃんに全力アタックを試みて回し蹴りをくらっていた。お妙ちゃんは二重人格なのではないだろうかと思ってしまうほどに、近藤君への態度が物凄い。他にも柳生さんや猿飛さん。山崎君に新八君など色々な人が私の机を訪れてくれた。なんだか、こんな風にされたのは初めてで。

「んで、私との約束ほっぽって三限出席ってわけっすか」
「ごめんってまた子。教室をでるタイミングを見失っちゃったの」

 昼休みの地学部部室には私とまた子の二人きり。屋上に上がる四階の階段裏にあるこの四畳半程の空間は、部員数一人の地学部の部室なのだ。この部屋は昔、地学部が学校合宿をして屋上で星をみるために位置取られたようで、いつか私も夜の学校に忍び込んで星をみてみたい、とか少しは思っているのだ。

「でもまあ、よかったっす」
「なにが?」
「名前は知り合いいないととことんクラスと馴染めないっすから。馴染めても馴染めなくても私は名前と一緒にいるつもりっすけど、やっぱりいるに越したことはないんすよ」
「ま、また子ぉ」
「ちょ、なに抱き付いてんすか!」

 どうやら私のことをずっと心配していたらしいまた子はお妙ちゃんとはまた別の優しげな笑みを浮かべた。そんなまた子が愛おしくて机に座ったまた子に下から抱き付けば、また子は例にもれず照れ隠しがバレバレの声を上げる。
 きっと去年一年間、また子は河上君と同じクラスだったから余計にそう後ろめたく思っているのだろう。別にそんなこと気にしなくてもいいのに。

「そういえば武市さん、また子と同じクラスだっけ?」
「本当勘弁っすよ。留学いって単位足りなくて留年って意味わかんないっす」
「そっかーまあ卒業式の日私たちと一緒に遊んでたもんね」
「その時点でおかしいって思ったんすけどね。なんか聞けずにのらりくらりとしてたら今朝教室にいて驚いたっすよ」
「頭が良すぎるのも考えものだね」
「それにしても武市先輩、このまま留年し続ければもっと年下の子たちと同じクラスでいられるんですよねぇ……とかしみじみ言っちゃっててマジキモかったっす」

 武市さんとは私たちの一つ上の先輩で、ことあるごとにフェミニストを掲げるロリコンだ。変態ということはさておき頭が良くて留学に行ったのはいいものの単位が足りなくてこっちの学校は留年したというわけだ。しかしその状況でもそんな言葉を残すなんて、なんとも武市さんらしい。私は武市さんが留学先をヨーロッパにしたのは、洋ロリを見たかったからだろうと勝手に思っている。

「まあ、色々聞けて安心したっす」
「そういえば、晋ちゃん今日学校こなかったな」
「あー晋助様まだ寝てんじゃないっすか? 昨日夜中にバイオハザードしてたらしいから」
「一緒にやってたの?」
「いや、河上から聞いたんすけどね。河上が朝出てくる時にはまだ寝てたらしいっすよ」

 寝起きの晋ちゃんはやっかいだからなーと言いかけたところでチャイムが鳴り響く。あー、と唸って二人して宙を仰ぎながらも考えることはきっと同じだ。

「五限、いっかな」
「そっすね」

 溜まった灰皿の灰が空いた窓から吹く春風に小さく揺れた。
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